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 仕方がないので夫に頼むと、夫は自分にできることが見つかったのが嬉しかったのかとても張り切った。「会陰マッサージ王に、俺はなる!」 と鼻息を荒げ、ネットで会陰マッサージについて調べ上げ、毎日1時間ぐらいマッサージしていた。

 M先生に助産院の骨盤模型を見せながら「このあたりに筋肉があるから、ここをマッサージすると効くと思うんですが」と自論を力説していた。私は少し恥ずかしかったが、助産院的な世界観では膣は「まんこ」ではなく「産道」であり、「入れるところ」ではなく「出すところ」なので、まったく恥じらうことではないのだった。M先生はそんな夫にも引かず「ええ旦那さんやなあ」とニコニコしていた。おかげで私の膣は内診してくれたSちゃんに、「みゆきさんの膣、経産婦さんみたいにふわふわやなあ」と言われるぐらいに伸びていた。

 ある時、夫が会陰マッサージをしながら、「あっ、これは○ちゃんの頭じゃないか!」と言った。

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「なんか、この前まではなかった硬くて丸いものが奥のほうにある!」

 夫は、「触った! 触った! ○ちゃんの頭に触ったぞ!」と言いながらM先生に連絡をした。M先生は忙しい中、迷惑だったろうに「うん、たぶんそれは○ちゃんの頭ですね」と優しく答えてくれた。夫はとても興奮し、「○ちゃん、○ちゃん、○ちゃーん」と言いながら私の膣に手を入れて、○ちゃんの頭を撫で回していた。○ちゃんはびっくりしたのか、お腹をどんどんと蹴った。

 私は嫉妬した。M先生も、Sちゃんも、夫も、みな○ちゃんに触ったことがあるのに、私だけがまだ触れたことがないのである。

 そんな日々を過ごしながら、ついに40週に入ってしまった。あと6日。私は死に物狂いで陣痛を起こすためのあらゆる手段に取り組んだ。

 夫と毎日、京都御所をランニングし、鴨川のほとりで四股を踏み、伏見稲荷神社の千本鳥居をいちばん奥まで駆け登った。家の中では階段を踏み抜くかと思うほど力強く昇降した(踵の中心でドン! と音がするほど力強く踏むのがコツらしい)。

 卵膜剝離といい、赤ちゃんを包んでいる膜と子宮の壁を引き剝がし、陣痛を起こしやすくする技があるのだが、M先生に頼んでそれを2回やった。めちゃくちゃ痛かった。どれくらいかと言うと、子宮の入り口に爪が10本生えていて、それを全部引き剝がすのを想像してもらえばだいたいわかると思う。

 陣痛促進の鍼灸に毎日通い(1日7000円もかかった)、先生に、「うーん、おかしいね、これだけ生まれる予兆があるのに、なんでだろう」と言われながら「ここに刺したら生まれちゃうから普段は絶対に刺しちゃだめ」と言われる秘伝のツボに鍼を刺してもらっても(こちらも、めちゃくちゃに痛かった)、本陣痛は来なかった。