文春オンライン

ソ連兵への「いけにえ」にされた女性は蔑視された…満蒙開拓団の少女が証言する「性接待」のやるせない記憶

source : 提携メディア

genre : ライフ, 昭和史, 社会

note

「女を出せ!」と家に入り込んできたソ連兵

2022年2月24日、ロシア軍がウクライナへ軍事侵攻して始まったロシア・ウクライナ戦争。栄美(以下、敬称略)は軍事侵攻を受け破壊された町の映像や、夫や父親と別れて国外へ避難する女・子どもの姿を見て、泣けて泣けて何日間か、食事も喉を通らなかった。そして、記憶の底に沈んでいた、ソ連兵の姿がまざまざと蘇ってきた。

それは初めてソ連兵を見たときだった。妹の千裕が百日咳で寝ている部屋へ、二人のソ連兵が編上靴のままダダッと入ってきた。「マダム、ダワイ!」(女を出せ!)と、布団をバッとめくったときに、妹が咳きこんで洗面器に血がまじったものを吐いたのを見て去った。

「あの時のやつだ!」と、テレビのロシア軍を見た瞬間に思い出した。「カッと見上げたら、こんな高いところにベルトがあって、鼻がこんなに長くて、ビー玉が2つあったのよ。緑色のビー玉」、「あの時のあいつと一緒だ」、と。忘れていたことも、何かの瞬間に思い出すことがある。栄美は戦火の下にある人々へ、「生きてくれー!」と心の中で叫んでいる。

ADVERTISEMENT

顔に墨塗りして男装しても、すぐに見破られた

8月22日、ソ連軍の使者が来団し、日本の敗戦を告げた。武器を取り上げ、本部付近の住民を集めて腕時計や紙幣などを掠奪して去った。翌日から、連日ソ連兵の掠奪や強姦が始まる。女性たちが顔に墨を塗って男装しても、彼らは服を脱がせて検分するのですぐに見破られた。

団で相談して、女性たちは日中、草原に潜伏することにした。栄美たち開拓団員は、ソ連兵のことを「ロモーズ」と呼んだ。彼らは、駐屯する清河鎮から大和坂を登って、日中に軍服姿で鉄砲を担ぎ馬を蹴立ててやってくるため、団ではその姿が見えると屋根の上に昇り旗をあげ、帰って行ったら旗を降ろすという合図を送ることにした。

ソ連兵の来襲の合図を受け、栄養失調で弱っていた赤ん坊を負ぶって草原に身を隠した母親が帰ってきて見てみたら背中の子は死んでいた、ということもあった。