文春オンライン

ソ連兵への「いけにえ」にされた女性は蔑視された…満蒙開拓団の少女が証言する「性接待」のやるせない記憶

source : 提携メディア

genre : ライフ, 昭和史, 社会

note

開拓団の女性たち発した「卑劣」な言葉

これは、あの、いわゆる人間の性の恐ろしさだと私は思っとるの、なんていうの、中には、あの衆、いいことしてきたで、どやったね? 大きかったね? という人たちがいたの。そういう人も男の人には飢えとるの。わたしは子どもで意味がわからんのに、ものすっごく卑劣だ〔と思った〕。だってそんなところへ二人行くなんていいことじゃないじゃない。許せんなーと、その時は思った。

――それは女性が言うのですね?

女性が言うの。それは今、考えるんだけど、その人も、人間的に飢えとる、若い身体の女性が子どもだけ押し付けられて、ね。そいう言葉が出ても不思議ではないな。

ADVERTISEMENT

――けど、今の時点では……

この人たちも悲しかったんだな。大人になって考えると、戦争のなかで出てきた問題なんだなと。

「性接待」した女性は「汚れた女」と差別された

ソ連兵への「性接待」として提供された女性たちが、出されるときこそ感謝されたが、帰ってきた後は「汚れた女」として貶められ、差別的視線にさらされたという例はよく見られる。

性暴力の犠牲者へ差別的なまなざしを向けた者は男性に限らず、女性にもあったことが、この栄美の証言からもわかる。子どもの栄美はそれに対し「卑劣だ!」と怒りを覚えたが、年を重ねた現時点で振り返ってみると、そのような言葉を発した女性たちも、夫不在のなか独りで子どもの命を守らねばならない緊張した日々を生きていた。そのような辛い状況が言わせた言葉だと、年を重ねた現在の栄美は思っている。

平井 和子(ひらい・かずこ)
女性史・ジェンダー史研究者
1955年広島市生まれ。立命館大学文学部卒業後、中学校、高等学校の教員を経て、1997年静岡大学教育学部社会科教育修士課程修了。2014年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。現在、一橋大学ジェンダー社会科学研究センター客員研究員。専門分野は、近現代日本女性史・ジェンダー史、ジェンダー論。著書に『日本占領とジェンダー 米軍・売買春と日本女性たち』(有志舎)『占領下の女性たち 日本と満洲の性暴力・性売買・「親密な交際」』(岩波書店)がある。
ソ連兵への「いけにえ」にされた女性は蔑視された…満蒙開拓団の少女が証言する「性接待」のやるせない記憶

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー