1948年に刊行された太宰治の『人間失格』が韓国でベストセラーになっている。2004年に韓国語訳が初めて出版され、純文学作品としては知られてきたが、ここ数年は特に人気が高まっているのだ。
『人間失格』が韓国で初めてベストセラー20入りしたのは2018年。大手書店「教保文庫」が選ぶ年間のベストセラー総合小説部門で16位に登場し、19年には21位、そして21年には一気に7位に浮上した。2022年は11位だったが、現在も海外小説のベストセラー20で8位、ステディセラー(ロングヒット商品を韓国ではこう呼ぶ)にも入っている。
今では数社が出版する『人間失格』だが、ベストセラーになっているのは最初に翻訳本を出した老舗出版社「民音社」の作品だ。2010年からの累積部数は電子書籍も含めおよそ50万部、紙の書籍の重版はすでに120刷だという。
2021年には1年間で10万部が売れた
それにしても、今なぜ『人間失格』なのだろうか。民音社マーケティング部のチョ・アラン氏に訊くと、2つのきっかけがあったという。
「長く愛されてきた作品ですが、販売部数に動きがあったのは2017年以降です。17年に歌手のIUさんが人気のエンタテインメント番組で『人間失格』を読んでいる姿が流れて、注目が集まりました。さらに大きく動いたのは2021年で、これはYouTubeのプレイリストの影響を大きく受けました。この年には1年間で10万部ほど売れました」
IUは韓国の歌手で、イ・ジウンという名前で俳優としても活動している。是枝裕和監督の映画『ベイビー・ブローカー』や多くのドラマにも出演しているトップスターで、特にZ世代から支持されている。
YouTubeのプレイリストは言葉の通り楽曲を集めたリストだが、その時に小説、映画などの作品をテーマに選ぶことがある。
プレイリストを専門とする「TAKE A LOOK」というユーチューバーが、2021年5月に『人間失格』をテーマに6曲を選んでアップしたリストが大きな話題になった。プレイリストのタイトルは、「第一の手記」の冒頭「恥の多い生涯を送って来ました」で、曲は日本の3人組「アコースティックカフェ」によるもので「ラストカーニバル」などが含まれている。