ちなみに8月第1週のランキングでは、海外小説ベスト20の中に日本の本は『人間失格』も含め11冊。2位に『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』(町田そのこ)、3、4位は東野圭吾の『ある閉ざされた雪の山荘で』『マスカレード・ゲーム』、7位に『世界の終着駅』(櫻井寛)、9位『すずめの戸締まり』(新海誠)などだ。
SNSなどの発達で読者の望む作品も細分化され、「そこへ登場したのが日本の上質なミステリーだった」(大手書店関係者)ことが影響しているという。
『人間失格』だけではなく、最近、日本に関連して人気が出ているものの中心にいるのは、韓国の“Z世代”だ。
例えば、ハイボール人気。ハイボールはひとり酒が流行した2016年頃から登場していたが、コロナ禍の2020年からじわじわと人気になり、サントリーの角瓶が品薄で価格が高騰したこともある。
今春、ゴルフのために1か月で3回福岡に行ったという知り合いは、20代の娘からサントリーの角瓶を頼まれて、毎回1本ずつ買ってきたと話していた。韓国ではこれまで「古い酒」として見向きもされなかったウイスキーの売り上げが伸びており、代わりにワインの消費が落ちてきているとニュースにもなっている。
2023年の前半だけで312万人が日本を訪れた
そして、長らく忘れられていたJ-POPも「韓国にはないサウンド」がZ世代を中心に人気が出はじめている。この5月にはimaseの『Night Dancer』の韓国語バージョンが発売された。同曲の日本語版が、3月に韓国の音楽チャート「メロン100」にランクインしたのも記憶に新しい。最近imaseは、宮脇咲良がメンバーのK-POPの人気ガールズグループ「ル・セラフィム」ともコラボレーションしている。
ポピュラー音楽評論家のファン・ソノプ氏は『weverse magaZine』(2023年4月27日)で、「(J-POPの拡散現象は)なんといってもショートフォーム(TikTokなど)」だと分析している。
TikTokでは藤井風の『死ぬのがいいわ』やあいみょんの『愛を伝えたいだとか』などが人気となっている。
また韓国ではコロナからの解放感から、「リベンジ海外旅行」が爆発的な人気になっており、その旅行先としても日本は人気だ。今年上半期の海外旅行者が日本は361万人だったのに対して、人口5000万人強の韓国では993万人にのぼっていることからも過熱ぶりがよくわかる。そしてそのうちの約3分の1の312万人が日本を訪れている。
最近は「韓国で日本ブームが起きている」と言われることも多いが、筆者にはブームというよりは自然な傾向に戻ったという印象が強い。
2018年には韓国からの訪日観光客が過去最大の753万9000人を記録したし、日本商品の不買運動「NO JAPAN」が始まった2019年でさえ、558万5000人が日本を訪れた。
その後に韓国では政権交代が起き、今年1月には映画『THE FIRST SLAM DUNK』が韓国でも空前のヒットとなったことで、それまでもSNSで日本のコンテンツを楽しんでいたZ世代の関心はさらに高まったということだろう。
コロナ禍がなければこの流れはもっと早く訪れたかもしれないが、政治的な日韓関係の改善により韓国社会の雰囲気が変わったことも大きそうだ。