この制度の利点は、贈与した時点の価格で相続財産に加算されるため、成長している会社の株など、将来、価値が上がるものを贈与すれば節税になることだ。逆に、家屋など将来価値が下がるものを贈与すれば、相続税が増えることになる。
男性が制度を利用したのは、体があまり丈夫ではなく、3000万円の預貯金を贈与するために時間をかけられないからだった。加えて、男性が亡くなった時に贈与した3000万円を相続財産に加えても課税ライン未満のため、相続税もかからない。
預貯金を贈与した結果、男性の財産は、売れる見込みのない家と山林だけになったため、将来、男性が亡くなった時に長男と長女は相続放棄することになった。
税理士が提案をためらった理由
秋山税理士は相続税専門の税理士として、この対策を勧めるべきか迷ったという。
「理由は、抜け穴を利用するこうした行為を勧めることは税理士として倫理上の問題を感じるからです。それ以上に、親が子供に預貯金をすべて渡してしまえば、子供が親の面倒を看なくなる恐れがあります」
それでも親の財産の中に、預貯金などの有用な財産と、売れる見込みのない不動産など無用な財産が混在している時は、他に有効な手立てはないという。
「売れない家は何をしても売れません。深刻な悩みを聞けば手段は選んでいられないとも思います。この問題は個人レベルで解決できるものではなく、国が抜本的な対策を講じなければ、放置された空き家や、所有者が特定できなくなる不動産はますます増えていくでしょう」(秋山税理士)
なお、借金のある親が多額の財産を子供に移せば債権者への詐害行為になる可能性があり、専門家に確認したほうがいい。
ちなみにこの男性の場合、贈与を終えてしばらくした時に家と山林は売れる目処が立ったため、秋山税理士の後顧の憂いはなくなったという。