――だからこそ、皆さん驚かれたんじゃないですか?
赤井 ある試合の前に、DDTの選手に「引退することになりました。あとわずかですが、精いっぱい走り抜けますので、よろしくお願いします」と伝えたんですよ。そしたら、ノーリアクション。みんな私のほうを見てるし、声も届いているのに、誰も反応しないから「えっ、聞いてる?」みたいな(笑)。
あまりにもみんなが無反応だから、先に報告していた坂口さんに「みんなにも言ってたの?」って聞かれて、「いや、言ってないです」って。
「結婚でもすんの?」という質問にイラっとしたワケ
――突然の報告だったから、理解が追いつかなかったのでは?
赤井 そうかもしれない。みんな静止画かと思うくらい動かなくて、時が止まっていましたね。そのあと、少し時間が経ってから「いつから考えてたの?」「びっくりしたけど、赤井さんらしい選択だね」と話しかけてくれるようになりました。
でもそのときに、ひとりだけ少しイラっとする言葉をかけてきたんです。
――なんと言われたのですか?
赤井 ニヤニヤしながら「結婚でもすんの?」って聞いてきたんですよ。その場では「全然違います。その予定はまだないんです」と答えたんですけど、試合が終わったあとにそのやりとりを思い返して、「えっ、ちょっと待てよ。もし私が男子選手だったら、あの質問をしていた?」とイライラしました。
――その人の中に、女性選手の引退=結婚という偏見があったのかもしれません。
赤井 一緒に育ってきた選手やデビューから見てくれてた先輩達には、そんなこと言われなかった。その人も悪気は無いとは思うのですが、デリカシーに欠けていると感じました。
確かに、女子プロレスラーの引退理由はこれまで、結婚・ケガ・心の病の3つが多かった。でも最近は結婚後も選手を続けている人がいますし、結婚するために選手を辞めなきゃいけないという考えは、ちょっと違うんじゃないかなと。
そういう考えの人たちが中心にいたら、プロレス業界はいつまでも変わらない。だから私の引退を通して、業界やほかの選手たちに「引退=結婚やケガ、ではない」というのを見せたいですね。
撮影=杉山秀樹/文藝春秋