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 前年、小沢が所属していた自民党最大派閥・竹下派の会長だった党副総裁の金丸信が東京佐川急便から5億円の違法献金を受け取っていたことが発覚。金丸は罰金刑を受けて議員辞職に追い込まれた。

 ナンバー2の会長代行だった小沢は、金丸に代わって派閥を引き継ぐことを目指した。しかし、かつて側近だった野中広務や中村喜四郎といった議員たちからまで「派閥乗っ取りだ」と反発が噴出し、跡目争いは激しい内部抗争に発展した。結局、抗争に敗れた小沢は、年末に羽田孜とともに政治改革を旗印とする新派閥「改革フォーラム21」(羽田派)を結成していた。

 年が明けても、小沢や羽田が提唱する小選挙区制の導入を柱とする政治改革法案を巡って、自民党内の対立は収まっていない。野党からは、選挙制度改革は金権腐敗への批判をかわす方便だとの攻撃も続いている。元首相の竹下登が自民党総裁選に際して右翼団体からの「褒め殺し」の嫌がらせを暴力団に依頼して止めさせたとされる「皇民党事件」(1987年)に絡んで、竹下とともに側近だった小沢の証人喚問を求める声も強まっていた。

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 そんな状況のなかで小沢は年末年始には文京区千駄木の日本医科大学付属病院に人間ドックを兼ねて入院していた。疲弊した心身を少しでも癒したいと「現役」の番記者ではなく、「OB」で比較的気心が知れた私たちを誘ったのだろう。

 そう思った私たちも、新年早々の明るいニュースだった皇太子の婚約とか、2年前に心臓病で倒れた小沢が元気になったのは夫人手作りの「愛妻弁当」のお陰だ、などと当たり障りのない話題を選んでいた。

「僕の勘では、今年は大政局になるかもしれない」

 だが、政治の話を熱く語り始めたのは小沢のほうだった。

「今年は秋に自民党総裁選があるだろう。こういう年は変化が起きやすい。通常国会はいつも政局の火種だ。来月には衆院議員の任期が3年を過ぎる。宮澤(喜一)総理は、総裁選前の早いタイミングで解散したいところだろうが、政治改革法案がどうなるか。僕の勘では、今年は大政局になるかもしれない」

 私たちはすぐさま疑問を呈した。

「しかし、総理はオールマイティーと言っても、宮澤さんに思い切った行動ができますかね。宏池会(宮澤派)の所属ではない梶山静六さんを幹事長に据えたということは、党内融和優先の意思表示じゃないですか」