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「ヤクザなら、これは買っておいた方がいいぞ」

 若頭と一緒に買い物やパチンコに行った時なんかは、若頭がそっとアドバイスをくれてはりました。こんなワシでも、多少の貯金ぐらいはありましたので、当然のごとく「ほんなら」と、若頭の勧めどおりに買うたりもしとりました。その頃のワシは、若頭の姿を見て、羨ましくも形よくも見えとったので、まだ新米のガキながらも、少しでも「ホンマの極道に近づきたい」いう想いが強かったんちゃうかと思うとります。

 しかし、それこそが全て罠……。

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 それが罠やったいうことには、あとあとに気づくことになるのですが、気がついた時には、すでにワシの貯金は底をついておったのです。ワシの持ち金を早くなくし、丸裸にして「事務所から身動きできなくする」という、策略にすぎんかったわけですわ。貯金もなくなり、シノギという名の稼ぎもないワシにとって、ここから、ただひたすらに事務所で組の用事をするという地獄の日々の始まりだったのです。

 極道の世界では当たり前のことですが、給料なんかありまへん。ほんなら、自分でお金になる「何か」を探さなあきまへんのや。こりゃあホンマに、地獄の日々の幕開けでしたわ。

シノギの3割を組に入れる

 苛酷とも言える部屋住みをしながら何とか銭を稼がなあかん……。

 ワシはCDのレンタルショップへと向かいます。とりあえず、シングルTOP10を全部借りてきて、用意しとった空のCDへとコピーし、人気アルバム風のCDを作り上げる。最初のシノギとして、稼ぎを生み出したものというたら、知り合いに買うてもらったこのCDやった。

人気アルバム風のCDを売るのもシノギのひとつ。写真はイメージ ©getty

 ワシは運がよかったんか、人付き合いの流れというモノがたまたまあって、これが多少のシノギになりました。余所様に嫌われてりゃあ、こんなもん当然買ってもらえんのですわ。

 極道の中でも、上にあがれるように「頑張れ」と言うてくれる応援者がいてるモノなのですが、ワシもこの頃は、そういう応援者が何人かおってくれた。それとは別に、「買わな、しばかれる」とワシを恐怖に思う人間もおったが……。それで何とか、月に10万円ぐらいのシノギにはなりまして、雀の涙ほどの銭は入りだしたいうことです。

 やっとの思いで稼いだ雀の涙の10万円。コレがまた、極道は大変や思うところでありますが、やっと稼いだ思うた雀の涙の3割……。雀の涙は10万円、涙の3割は3万円や。その3万円を、組に入れなあかんのですわ。組員それぞれのシノギから3~5割を組に入れて、組の経営というモノが成り立っている世界やいうことです。

 ワシの雀の涙ほどのシノギから組に入れてもたかが3万やて。そんな銭が、何の足しになんねん……。ワシにその3万、使わせりゃでっかいのになあ。極道いうてもせっこいよのォ。