「『暴力を振るう小舅』が、家の中に10人以上おる状況や思うてみてください。その小舅たちと、365日24時間生活を共にしていくいうことですかね」

 半分の人間は、半年のうちに逃げ出すという「新米ヤクザ」の生活とは? 十数年前、関西の広域組織に所属していた元暴力団員「てつ」氏の著書『関西ヤクザの赤裸々日記』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

人権もない、給料もない新米ヤクザの悲しい生活とは? ©getty 

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新参者の役割は住み込みの雑用

 極道の世界でも、組織によっては色々な形や方針があるモノです。

 ワシが入った組では、新参者は「部屋住み」という、いわゆる住み込みのような「役」が最初の仕事として与えられとりました。一般の会社でいうところの、「ノー」とは決して、決して言えない平社員いうやつですわ。

 まず、組に入ると、寝泊まりは組の事務所での共同生活。事務所の雑用や事務作業、客人の受付などをしながら、組の中に生活の中心を置いて、日々の生活を送っていく。ここから、極道の第一歩が始まっていくことになるのです。

「人として」を学ぶんと一緒で、極道として最初に色々と覚えなあかん「所作」というモノがありましてね。電話の取り方や挨拶、茶の出し方などなど、数え切れぬほどの行儀作法を学んでいくことが、新米極道に与えられた初めての仕事でした。その所作を学ぶ中では、覚えが悪かったりミスをすれば、毎回ではないですが、そりゃあ、どつき回されたりもしますわ。

「暴力を振るう小舅」が、家の中に10人以上おる状況や思うてみてください。その小舅たちと、365日24時間生活を共にしていくいうことですかね。そこいらにおる、ただの小うるさい小舅やありまへんねん。あっちからもこっちからも、わいやわいやと言うてきはるし、間違うたりなんかすると、どこから手が飛んでくるかもわかりまへんのや。

 この部屋住みという役があまりにも厳しく、半分の人間は、大概、1年を半分も過ぎんうちに逃げ出すと言っても大袈裟ではないぐらいなもんです。ただ、この部屋住みでの経験が、道を極めていくという極道の初歩にもなるのです。

 組の事務所での生活でも、先輩がきっかけで知り合い、声をかけてくれた若頭が優しくて、色々と気にかけてくれとりました。たまに、一緒に買い物に行ったり、パチンコに行ったりしていまして。ワシは、外の空気が吸えるいうだけでも嬉しかったですわ。