「あのおっさん舐めとるな!!」
うっかりヤクザの親分の女に手を出した中年は、その後どうなってしまったのか……。過去に関西の広域組織に所属していた元暴力団員「てつ」氏の著書『関西ヤクザの赤裸々日記』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
防犯カメラに映る人物は…
ワシは息を呑んだ。持っていた木刀を握りしめたまま立ち上がる。そして、玄関まで近寄ると、息を潜めて臨戦態勢になって身構えた。防犯カメラに映り込んだ、走って近づいてくる人影がこちらに来る。ワシの木刀を持つ手に力が入った。
すると、それはなんとも、親分だったのである。頭をかち割らんでもセーフだったことには感謝しとる。そして、数人の組員たちが続く。いかに、殺さんでもワシに危害が及ばんのかを、考えていた最中やった。整理がつかぬままの頭の中ではことさら、何が何だかわけがわからなかった。
よりによって、全員が全員、血で服が真っ赤。靴までもが真っ赤。まさに飛び込むように、事務所に帰ってきたんや。「風呂や、風呂や」と矢継ぎ早に言いながら、帰ってきた組員たちは風呂に向かった。どうなってんのやろ……。何も理解できず、唖然としているワシを風呂場から呼ぶ声が聞こえた。「急ぎや」なんてことは、現場の空気で察しとる。呼ばれるまま急いで風呂場へと向かった。
「全員の服と靴、どこかに急いで捨ててきてくれ」
風呂に入っていた組員たちは、全員が口を揃えてワシにそう言う。
「わかりました」
そう言うしかない。ワシは全員の服と靴を黒い大型のゴミ袋、ふたつに入れて車に乗り込んだ。血で染まった服と靴。こいつを捨てるために、車を走らせるのや。
走り出してから、ようやく我に戻った。またやることができてしまった。考えなあかん。車を出すまでの間っちゅうのは、もう何というか、自分であって自分ではない。ただただ圧倒され過ぎて、ただただパニック状態っていうやつやったんやろう。
車を走らせていると、我に戻った頭から浮かんだのはまず、昼間の事務所で起きた衝撃的な光景であった。すると、この出来事も昼間の流れの続きであると、やっと理解したワシは頭をフル回転させた。
急いで血にまみれたゴミ袋の中身を捨てなあかん。
ただただ、その言葉だけが頭の中をぐるぐると回っていただけやった。せやから、何も思い浮かばん。浮かぶわけがない。単語ばかりが頭の中をぐるぐるとしよるのや。何をどうすればなんて浮かぶわけがない。もちろん、そのための手立てなんてモノは、何も思い浮かばず。