ヤクザの女に手を出した男の末路
組員のほとんどが、警察に連れていかれた。とりあえずワシと、全く使えない組員、若頭、この3人で事務所ごとをやっていくことになった。とはいえ元々、組の大事な金の管理や色々な帳簿関係は、若頭と事務局長。雑用係はワシと、使えない組員がやっていたので、仕事量はさほど、増えたわけでもなかった。せやから、ワシの生活には変わりはなかった。
そうして、今までと変わらぬ日々を過ごしていた。
「親分の件やが。相手のおっさん、意識不明やったが、意識戻った言うから行ってきてな。銭、渡して示談にさしたから、来週皆出てくるからな」
若頭からの突然の通達やった。
港でボコボコにリンチされて家に放り投げられた後、おっさんは救急車で病院に運ばれた。10日ほどは意識不明だったらしい。意識が戻った時には若頭たちがおって、目の前に金を差し出しとるいうわけや。
「金をやるから示談にしろ」
目が覚めたおっさんの目の前には、金が積まれている。
ここはどこ? 私は……なんて状況やん。それで間髪入れずに、脅して示談にさせた。
おっさんからすれば、そりゃ受けるやろ。親分の女に手ェ出したおかげであんな目に遭うて、気がついたら「金をやる」や。「金貰えるだけマシ」思うてまうやろ。
まあ、ワシもこの時には「やっぱり死にかけてたんや」なんて思うたし。そりゃあ、あの夥しい血の量や。トラウマ級の光景を目にすれば絶対死んどるとしか思えへんわ。
殺しかけるという無茶苦茶をしておきながら、最後は金と脅しで解決。どこの誰だかもようわからんおっさんの話やが、ワシは人殺しになる寸前やった。女が絡むと、ろくでもない。勘弁してくれと、心の底から思ったわ。せやけど、まさにこれが極道いうやつや。解決法まで暴力。これが悪の道を極めることやなんて思うたら、そんときはさすがやのォとしか思われへんかった。