とりあえずと、車を走らせた先にあった大きな川の底に沈めただけやった。そんな頭ん中でも「何かあった時に」という思考だけは、無意識のうちに働いておったようや。捨てたゴミ袋を後からでも移動できるようにと、大きな川の、その場所だけはしっかりと、脳みその奥に叩き込んどった。その後は足早に逃げ出した。不自然に思われぬように慎重に、急いで車に乗り込むと事務所へと向かった。こん時にはもはや、何も考えられずに、ただただ早よ帰らなあかん思うて必死やった。
どれぐらいの時間がかかったのかも知れん。ようやくと、事務所に着いたワシは、ホッとすると同時に、中の様子を考えると、少しドキドキしながらもドアを開けた。すると、シャワーで血を洗い流し、綺麗になった組員たちはソファーに座っており、とかく明るい様子で話し合うていたのや。
玄関にワシがおることに気づく者などいない。こん中に、ワシのパニックなど気にしとる者など1人もおらんのも当たり前や。どころか、今までのことは何やったのかと、嘘みたいに、まるで何事もなかったかのようやった。ワシにはそう、見えとった。
「あのおっさん舐めとるな!!」
ようやく落ち着いてきたワシは、組員たちの話を聞いているうちに、やっと事の全てを理解した。昼に親分にボコボコ、いや、半殺しにされたおっさんが、夜には「自分の小指を切り落として詫びにくる」という約束をしとったのだが、厄介なことにそのおっさん、親分との約束を無視したという話やった。
元々が酒癖の悪かった親分に酒が入ればそりゃあ、「あのおっさん舐めとるな!!」なんて、怒り出すのは当然のことや。外に出ている組員を集めて、おっさんの家に行ったらしい。家からおっさんを無理矢理引きずり出すと、車のトランクに押し込み港まで連れ去ったのだという。港に着いたら、あとは昼間の続きや。全員で殴る蹴るのリンチをし続ける。
ピクリとも動かなくなったおっさんを再び車のトランクに押し込むと、おっさんの家に向かったらしい。そして、動かないままのおっさんをそのまま、家に放り投げて帰ってきたという話やった。
組員たちは口々に、好き勝手に話しておった。
「死んではないやろォ」
どこかから聞こえるとすぐに、親分の声も聞こえる。
「まだやり足りん」
などと言うてはる。そんな中でワシは、昼夜の恐ろしい流血の量を思い出しとった。
絶対死んどるわ。そう思うて、誰とも目を合わせられんかった。そりゃあ、そやろ、ゴミ捨てに行った直後や。あんな量の血がついた服を何枚も捨ててきた後や。そんな状況で、動揺を隠すなんてできへん。
目が泳いでまうわ。まともに見れへんと思ったからや。部屋住みのワシがこの時に初めて、極道の暴力というモノを知った出来事やったんや。これこそVシネや映画で見ていた世界や。それが急に、現実に目の前に現れて、見て感じとる。何万倍、いや、もう想像もできんかったぐらいに、恐ろしい世界やと思うた。ワシがガキの頃にやってきた喧嘩というもんは、全てが子どもの「ままごと」にすぎんかったと実感した。