1ページ目から読む
3/4ページ目

 ワシが入った極道の世界っちゅうもんは、普通じゃあり得へんことがバンバン起こる。事務所ん中がホラー映画のように、血にまみれていることに唖然とした。たったの1日で起こることやない。

 そりゃあ8割逃げ出すっちゅうのも当たり前や。極道が恐ろしいモノだと感じてまうのは当たり前やし、やっていく自信さえなくしてまうっちゅうもんよ。ワシが逃げ出さんかったんはなんでなんか、今でもわからへん。わからへんけど、極道を舐めていたと深く反省した事件であったことは、覆しようのない事実やった。

「ワシがうまいことするからなァ」

 ゴミを捨てに行き、事務所へと戻ってから、組員たちの話で事態を理解した時や。ふと、親分の携帯電話が事務所の中に鳴り響いた。

ADVERTISEMENT

「刑事からや」

 親分が話し出すと、皆が沈黙した。その間、2分ほど。その沈黙の中で親分が口を開く。

「すぐ刑事が来るからのォ。おっさんどつき回したメンバーわかっとるさかい、捕まえにくるわ。皆完全黙秘な」

 親分の決定に皆が注目した。

「ワシがうまいことするからなァ」

 親分がそう言い切ると皆の方向が決まった。同時にパトカーのサイレンが鳴り響いてくる。事務所に刑事が入ってきた。ワシはドラマや映画やと思いながら眺めていた。「捕まえるぞ!!」なんていう、よく出てくるドタバタなやり取りなんかは全くなかった。

 まず、暴力団担当刑事が1人、事務所に入ってきた。通称「マル暴」と呼ばれとる刑事たちや。そのマル暴が入ってきて、「親分、行きましょか?」と言うと、親分は刑事に返答するなり組員に向かって言った。

「ほな行くでェ」

 親分が声をかけると、事件に関わった組員たちがそれに従う。1人ずつ、刑事とセットになってパトカーに向かっていった。

「長くはならへんけど、あとは頼むぞォ」

 親分は、事務所を出る間際に、ワシと若頭に向かって笑顔になると、そう言い残して行った。暴行に加わった組員が皆、警察へと連行されていった。これもまた、世間一般では「ホンマやろか?」と思わはるような話や。マル暴と極道は、大体が仲がいい。

 極道絡みの事件などでは、マル暴と極道が、情報の連携を取っているのなんて当たり前や。何かあれば、まずは、マル暴から極道に一報が入る仕組みになっとる。マル暴によっては、一緒にメシを食べに行ったりする者もいよる。昔から違わず、当たり前かのようにマル暴と極道は繋がっておる。ワシにも常に仲のいい刑事はおった。