「もう気づいてもうたんや……。親分には、常に金がないということに」

 昼食代も細かい経費も払うのはすべて自分……18歳の新米ヤクザの愛想を尽かさせた「親分のありえない態度」とは? 十数年前、関西の広域組織に所属していた元暴力団員「てつ」氏の著書『関西ヤクザの赤裸々日記』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

新米ヤクザを引退にまで追い込んだ、親分の情けない財布事情とは? 写真はイメージ ©getty

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モノ思うこと

 ある日、親分がワシに言う。

「てつゥ、出前取るぞォ。ワシ、カツカレーなァ。事務所の金庫から出してくれ」

 ワシは金庫を開けてみる。しかし、そこには何もなかった。

「親分、金庫のどこですか? 見当たりませんよ」

 何もなかったことを親分に伝える。

「てつゥ、出しとけや」

 親分が言った。

 この日から、親分への不信感が拭い去れなくなっていく。ワシの歩く道が変わっていくことになるんや……。

 ある夜のこと、親分と客人が飲みに行くというのでお付きをすることになる。午後10時から夜中の1時ぐらいまで飲んだ親分を連れて事務所へと戻った。

「てつゥ、金庫の銭持ってこい」

 事務所に着くと、すぐに親分が言う。

 え? や。ワシは「事務所の金ですか?」と聞き直す。

「じゃかましい!! 金庫言うたらひとつやろうが!!」

 と、そう言われたので急いで持っていく。絶対あかんやん……。そのうちヘタ打つヤバいやつやろ。そう、思うとった。

「ワシ1人で出かけるから付きはいらへん」

 金を手にした親分は、そう言うて出かけていった。

 それから1週間ほどが経った日のこと。ワシは親分と昼飯に出かける。

 払いはワシやった。もう気づいてもうたんや……。親分には、常に金がないということに。