さて、そんな父でしたが、もちろん悪いことをすればしっかり叱られました。
ヤクザの組長ということで怒鳴り散らすというイメージがあるかもしれませんが、むしろ逆で、理論立てて諭すような叱り方でした。
しかし、私の悪い点を冷静に指摘してくる分、怒鳴られるよりも恐ろしく、叱られるたびに寿命が縮む思いがしたものです。
ヤクザの父に叱られた日
父に叱られたことで印象に残っていることがあります。
あれはたしか、小学校4年生か5年生の頃だったと思います。
たしかその日は法事か何かで親戚が集まっており、同世代の親戚の男の子が何人か我が家にきていたんです。小学4、5年生といえばいたずら盛りの頃。ひとりでさえ悪ガキなのに、そんなのが集まるとロクなことをしないもの。従兄弟が突然「なあ、タバコ、吸ってみいへんか?」などと言い出したのです。
当時は現在とは違い、禁煙という感覚が薄く、世の大半の大人はタバコを吸っていました。とくに私の場合は、周囲の大人の喫煙率はほぼ100パーセント。学校帰りに父の事務所に寄ると、タバコの煙が充満しており、室内にモヤがかかっているかと思うほどでした。当時の私たちにとって、タバコはそれほど身近な存在だったのです。
まずは、タバコの調達です。息をひそめて祖母の家の居間に入ると、どこかに出かけているのか、大人たちは誰もいません。テーブルの上を見ると、おそらく叔父のものでしょう、タバコのパックが置きっぱなしになっていました。銘柄はたしか、当時、日本初のロングサイズのタバコとして売り出されて、人気があったハイライトだったと思います。
それをコッソリと持ち出し、祖母が経営していた飲食店でマッチを拝借。バレないように少し離れた空き地に移動して……。皆で円陣を組み、隠れるようにしてタバコを回し吸いしました。
初めて吸ったタバコの味は、ほとんど印象に残っていません。子どもがやることですから、煙を肺まで入れず吹かす程度だったのでしょう。しかし、傍から見ると、子どもたちが集まっていて、そこから煙が上っていたら異様な光景でしかありません。
「こら! ガキのくせにタバコなんて、なにやっとるんだ! おい、お前、〇×組の“ぼん”やないか!?」
私たちの悪事はすぐに見つかり、事務所へ通報されてしまいました。
それからすぐに叔父が迎えにやってきて、私たちは事務所へと連行されました。