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染谷 そうなります。私たちの役割は、ご遺体を修復することですから、弊社の安置所から旅立たれてからは、葬儀社の管轄になります。ただ、お手直しなどにはお伺いしております。

 また、私たちはご遺族が故人さまと対面されている際も立ち会いません。ですが、「ありがとうございました」とお声をかけてくれるご遺族の方も多く、対面されたご遺族の方の表情を見ると、私たちもこの仕事をやっていて良かったなと思います。

――年間、どれくらいの特殊修復の依頼があるのでしょう?

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染谷 年間で100件以上はあります。さまざまな死因がありますので、ご遺体の状況によって特殊修復をどこまで施すか、金額的に内容も変わってきます。また、闘病されていたご本人はそのまま火葬することを希望していても、ご家族が「どうしても元気だったころの顔に修復してほしい」というご依頼もあります。ご葬儀の際に、いろいろな方にお顔を見ていただく必要があると。

©文藝春秋

――社会的に立場のある方だったんでしょうね。

染谷 そういったケースもあります。弔問で訪れた方が手を合わせられる状態にしてほしいというように、ご遺体の修復にはさまざまな事情があるんです。

角田 極力、ご遺族のご要望に応えられるように修復します。生前の故人さまの好みを大切にしてメイクも行います。火葬してお体がなくなったら、もう二度と会えないわけですから、ご遺体に向き合ってきちんとお別れできる状態にしてお渡ししたいというのが、私たちの思いですね。

電車に飛びこんで自死…遺族の切実な願い

――わかります。最期の表情を見た瞬間に、あらゆる記憶が上書きされる感覚がありました。

染谷 私たちが伝えたいのは、高い技術を持っているということではなくて、大切な方がどんな状況で亡くなったとしてもあきらめないでほしいということです。

 先にもお話ししましたが、電車に飛びこんで自死された方のご遺体を修復したことがありました。やはり損傷がかなりひどく、ご遺族は「対面しないで火葬したほうがいい」と病院や警察で言われたそうなんです。それでも「なんとかお別れができませんか。ここ(統美)しかないんです」と、私の手を握りながら訴えかけられて。私たちが何とかするしかない、と思いました。ご遺族の気持ちに応えたいという思いがある限り、遺体修復師の仕事に限界はないと思っているんです。