「チームの勝ち」と「選手の将来」、どちらを優先すべきか
このように、プロ入り後にシーズンから国際大会を通して活躍していた選手は多かったのだが、森以降はプロで活躍している選手はいないに等しい。夏に優勝を果たした2014年の世代は、香月一也(現・読売ジャイアンツ)、正隨優弥(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)、福田光輝(現・北海道日本ハムファイターズ)がプロ入りしたが、現状はレギュラーにまではいたっていない。また、最強世代と言われた2018年の二刀流・根尾昂や藤原恭大、柿木蓮、横川凱らは2022年終了時点でシーズンを通してまだ結果を残していない。
この状況は、チームとしての勝ちを優先するか、選手の将来を優先するかで、チームビルディングや育成方針が変わることによるものであろう。実際、平田や辻内崇伸(元・読売ジャイアンツ)、中田などプロ入りした選手が複数人いた2005年の大阪桐蔭はタレント性はあったが、優勝は逃している。
またそれ以前では中村や岩田稔(元・阪神タイガース)がいた2001年も結果を残すことができず、西谷氏は「あの時の夏の大会を勝たせてやれなかったのが、今までの中で一番の後悔として残っています。みんな一番練習したくらいの学年で大阪大会の決勝戦では0-5から最終回に追いついて、延長にもつれ込んだ試合でした。それなのに最後は競り負けた。監督として、なんと力がないのか。これだけ子供たちが頑張っているのに、導いてやれない監督の力不足を痛感しました(※3)」というコメントを残している。
こうした実力のある選手たちを優勝させることができなかった監督の後悔が、大阪桐蔭の隙のないチームビルディングや戦略の礎になっていることはたしかであろう。そうした積み重ねが、2013年以降の結果や選手育成、戦略の洗練につながったのだろうが、その影響か、野手も投手も似たような選手が増えてきた。具体的には、2021年以降の選手たちの打撃フォームは、足の上げ方や見送り方まで同じようになり、外角に精度の高いボールを投げきれるようなまとまりがある投手が増え、辻内や藤浪のような本格派の選手は減ってきている。
「完成されているなんてことはありません。僕らの目標は甲子園で勝つことであってプロ野球選手を育てることではない。もちろん、プロを目指している子の結果(進路)がプロになればいい。それだけです(※4)」と西谷氏もコメントするように、あくまでも2013年以降の大阪桐蔭は甲子園で優勝することが第一目標であり、プロ野球はその先の進路の一つにすぎない。
そのため、高校野球で勝つためのそつのないプレーをする選手が増え、かつての中田や森のようなプレッシャーに強いヤンキーマインドを持った選手は減ってきているのではないか。