「しごき」のような練習で選手を鍛え、ひとりのエースが完投し、スモールベースボールで勝利をもぎ取る……そうした高校野球の在り方は大きく変わりつつある。

 ここでは、野球著作家のゴジキさんが、2000年以降に甲子園を制したチームの戦略や戦績、個人成績などを多角的な視点から分析した『戦略で読む高校野球』(集英社)より一部を抜粋。

 甲子園で勝つチームを作ることと、将来活躍する選手を育成することが「別物」になりつつある高校野球の現状について分析する。(全3回の3回目/前回を読む)

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甲子園で勝つための最適解を持った大阪桐蔭

 甲子園で勝ち続けるチームを作るためには、個の選手の能力に左右されず、トーナメント戦を勝ち抜くための、高校野球ならではの最適解が必要となる。2000年代であれば、高嶋(仁)監督が率いていた智弁和歌山は、最適解を持ち甲子園を戦っていた。10年以上高校野球のトップを走り続けている大阪桐蔭は、2013年以降(つまり強打の正捕手、森友哉が3年生だった代以降)、甲子園で勝つための最適解を持ちはじめたと言えるだろう。

 裏を返せば、2012年までの大阪桐蔭は、チームとしては粗削りではあったものの、個々の選手のタレント性が強かったとも言える。その時代にプレーした中村剛也(現・埼玉西武ライオンズ)や西岡剛(元・阪神タイガースなど)、平田良介、中田翔、浅村栄斗、藤浪晋太郎、森友哉といった卒業生は、プロ野球でもタイトルを獲得し、チームの主力として活躍した。とくに2012年はチームとしても勝てて、個としても強い理想的なチームだった。

写真はイメージです ©AFLO

 特徴的なのは、いま名前を挙げた選手たちが、プレッシャーのかかる短期決戦で高いパフォーマンスを発揮していることだ。とくに、これまでの国際大会や日米野球を通して見てみると、高校野球で結果を残した大阪桐蔭出身の選手は、優れた成績を残している。

 なかでも優れた結果を残しているのは、西岡剛である。2006年WBCでは主に2番に座り、世界一に貢献。チームトップの5盗塁を記録するなど、大会を通していい意味で思いきりのよさが出た。北京五輪では故障を押しての出場だったが、こちらもハイレベルな打撃成績を残した。

 平田は、2017年WBCでは出番が少なかったものの、2015年プレミア12では辞退した柳田悠岐(現・福岡ソフトバンクホークス)や清田育宏(元・千葉ロッテマリーンズ)の穴を埋める活躍を見せた。中田翔も2015年プレミア12では文句なしの活躍を見せ、2017年WBCでも、いい場面で打点をたたき出して日本のベスト4進出に成績以上の貢献をした。

 浅村も、2019年プレミア12と2021年東京五輪で、世界一に大きく貢献したのは間違いない。とくにプレミア12では、主に5番打者としてチャンスの際に状況に応じた打撃を見せ、大会MVPの鈴木誠也(現・シカゴ・カブス)に次ぐ6打点を記録してチームを優勝に導いた。

 森は、2018年日米野球では負担が大きい捕手ながらも高打率を記録、U-18では2012年、2013年の大会に出場し、2大会連続でベストナインを獲得する活躍を見せた。また、オールスターでも2年連続のMVP(2018年、2019年)を獲得する資質を見ると、大一番に非常に強いと推測できる。