「しごき」のような練習で選手を鍛え、ひとりのエースが完投し、スモールベースボールで勝利をもぎ取る……そうした高校野球の在り方は大きく変わりつつある。

 野球著作家のゴジキさんが、2000年以降に甲子園を制したチームの戦略や戦績、個人成績などを多角的な視点から分析した『戦略で読む高校野球』(集英社)より一部を抜粋して紹介する。

 2021年に導入された「球数制限」、近年増えている将来有望株の投手の温存などにより、選手たちにはどんな影響が出るのだろうか――。(全3回の2回目/続きを読む)

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「球数制限」が変えた高校野球の戦略と予期せぬ弊害

 高校野球のルールも大きく変わろうとしている。その象徴が、2021年のセンバツ大会から設けられた「球数制限」だろう。この球数制限は、一人の投手は1週間に500球以内しか投げてはいけないというもの。この制度により、高校野球の戦略・戦術は変わりつつある。

 その一つが「投手の枚数」である。これまでも、甲子園で上位に勝ち進むためには投げられる選手が複数人必要だと言われてきた。しかし球数制限制度導入以降は、ただ投げられる選手がいるだけでは勝ち上がることはできない。

 その好例が球数制限導入前の、2018年の大阪桐蔭である。エース柿木蓮を中心に遊撃手との二刀流で出場していた根尾昂(現・中日ドラゴンズ)や左腕の横川凱といった3人の投手陣で春夏連覇を飾った。大阪桐蔭は球数制限導入後の2022年のセンバツでも、川原嗣貴、別所孝亮、前田悠伍の3人の投手陣で優勝を果たしている。

 この投手陣の特徴は、エースだけではなく、2番手や3番手も試合をしっかりと作るゲームメイク力を持っており、一人で投げきって試合に勝てる力もあったこと。つまり、どの投手に先発のマウンドを預けても試合を壊さない安定感があったのである。

 しかし、そうした戦略の変化は思わぬ格差を生んでいる。現在、複数の好投手を揃えることができる私立高校が、甲子園で上位進出を果たす学校のほとんどを占めている。私立高校は選手のスカウティングや育成に時間も予算もつぎ込むことができる。一方、公立高校は2番手、3番手の投手の育成に力を入れる環境や人員、資金が私立の学校に比べて少ない傾向にある。

 そのため、1人の投手で甲子園を勝ち上がった学校は、吉田輝星を擁して2018年夏に準優勝した金足農業や、中森俊介(現・千葉ロッテマリーンズ)を擁して2019年の春夏にベスト4まで勝ち進んだ明石商業などいずれも公立高校だった。21世紀に入り、一部の公立高校が甲子園でも勝ち上がれるぐらいの力をつけてきて、私立高校との差も縮まっていたなかで、球数制限の導入によって私立と公立の物量の差が以前のように開く可能性はある。