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大会日程によっても不公平が生じる球数制限

 また、球数制限は大会の日程によっても不公平を生んでしまう恐れがある。なぜなら、大会の早い日程で出場したチームは、遅い日程のチームより試合間隔が空くため「1週間に500球」というルールが守りやすくなるからである。実際に2023年のセンバツを制した山梨学院のエースは林謙吾一人のみ。その林は6試合4完投し、696球を記録している。

 このように500球までの制限を設けたところで、上手く運用すれば一人の投手が投げきれてしまっているのが現状である。今後は選手の健康面を考慮した上で、球数制限はさらに厳しくなっていくだろう。

 ただ球数という基準は、必ずしも投手の酷使の防止になるとは限らない。例えば2019年の夏の甲子園で準優勝を果たした星稜高校の奥川恭伸(現・東京ヤクルトスワローズ)は、3回戦の智弁和歌山戦は延長14回完投で165球を投げたが、そのほかの試合ではうまく球数を制御した上で抑えた。このように球数を制御しながら甲子園を勝ち上がった奥川だが、プロ入り後は肘の怪我で苦しんでいる。

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写真はイメージです ©AFLO

投手の調整不足を招く「投げなさすぎ」問題

 こうした球数の問題のみならず、2019年の夏の岩手県大会の決勝では大船渡高校が佐々木朗希(現・千葉ロッテマリーンズ)を投げさせないことが話題になった。このように、将来有望株の投手は大事な試合になっても温存する、という例は今後増えていくことが予想されるが、2010年代には大事な試合に力を残すためエースを温存するチームが増えてきていた。

 ただ、そうした戦略に泣かされるチームもある。2016年の夏の甲子園では履正社が寺島成輝投手(元・東京ヤクルトスワローズ)を温存し敗退、花咲徳栄も高橋昂也投手(現・広島東洋カープ)を温存した試合で敗退した(対照的にこの年の作新学院は、今井達也投手が大差のついた準決勝の試合以外はすべて完投して優勝した)。

 さらには、温存による思わぬ弊害もある。具体的な例が2022年センバツベスト4の浦和学院だ。浦和学院は夏の埼玉県大会でエース宮城誇南を温存し、3回戦で3イニングを投げさせたのみで、本格的に投げさせたのは5回戦からだった。しかしその5回戦で、宮城は(お世辞にも強豪校とは言い難い)大宮北に初回から先制を許してしまう。その試合は勝ったものの、準決勝の花咲徳栄戦では5回途中3失点。リードを許したままマウンドを降りた。

 この夏の大会の決勝までの宮城は不振にあえいでいたが、その原因は大会期間中の調整の失敗にあると思われる(浦和学院はその後、なんとか聖望学園との決勝に進み、宮城も復調し9回1失点の好投を見せたが、惜しくも敗れ甲子園出場を逃している)。