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 さらに、2022年にセンバツを制した大阪桐蔭の前田悠伍も「投げなさすぎ」に苦しんだ。

 前田は、大阪府大会5回戦の東海大大阪仰星戦でこの夏、初めてマウンドに上がるが、4回で5四死球。それでも、決勝では履正社打線相手に8回7奪三振・3四死球にまとめて、対応力の高さを見せた。高校野球においてはよく「投げすぎ」による問題が取りざたされるが、いまは「投げなさすぎ」も投手を苦しめるのである。

「投げなさすぎ」問題のもう一つのデメリット

 複数の投手を投げさせることが当たり前になった現代の高校野球において勝ち上がるカギは、それぞれの投手の調整能力にあるとも言えるだろう。この「投げなさすぎ」の問題は、大会を通した調整以外に育成面でもデメリットを生じさせている。

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 普段の練習から球数が管理されていることで、投げるためのスタミナを鍛えにくくなっている。そのため、実戦で練習以上の球数を投げた場合は、踏ん張りきれず大崩れをしてしまう可能性も高くなるだろう。

 このようなことから、練習から球数に制限をつけるのは、選手にあまりいい影響を及ぼしていないのではないだろうか。

写真はイメージです ©AFLO

 実はこの問題は投手や高校野球に限らず、スポーツ全体にも共通している。現代のスポーツのトレーニングはデータによる効率化により、時間の削減などが行われている。データの普及により、仕組み化などが進むなかで、過剰な量の練習は淘汰されつつある。しかし運動能力や体力の土台づくりのためには、ときには大きな負荷をかけるような練習量が不可欠である。

 さらには、練習量は運動能力の向上のみならず、精神的な自信や信頼感にもつながる。ベタな例にはなるが、キャプテンやチームの中心選手が最後までグラウンドに残っていれば、ほかの選手たちから大きな信頼感を得られるだろう。

 このように、効率的な練習や数字にとらわれることによって、技術の向上やメンタルの強さを養う機会を失う可能性もある。必ずしも、制度化が選手を守ることにはならないのである。

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