「しごき」のような練習で選手を鍛え、ひとりのエースが完投し、スモールベースボールで勝利をもぎ取る……そうした高校野球の在り方は大きく変わりつつある。
ここでは、野球著作家のゴジキさんが、2000年以降に甲子園を制したチームの戦略や戦績、個人成績などを多角的な視点から分析した『戦略で読む高校野球』(集英社)より一部を抜粋。
かつては忌避されていた「データ野球」に対するイメージは、近年どのように変化したのか。2022年夏の甲子園で優勝し、今年も活躍している仙台育英高校などに代表されるような「データ野球の恩恵」についても分析する。(全3回の1回目/続きを読む)
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高校野球におけるデータは選手の「カルテ」
『MAJOR』(満田拓也作、小学館、全78巻)という1994年から2010年まで連載された野球漫画がある。主人公の茂野吾郎(しげのごろう)が幼稚園児のころから始まり、リトルリーグ、中学野球、高校野球、マイナーリーグ、世界大会、メジャーリーグ、日本のプロ野球……と一人の人間の野球のキャリアと、チームメイトや友人たちとの関わりを描いた作品である。
そんな『MAJOR』の高校野球編(海堂学園高校編・聖秀学院高校編)に茂野のライバルとして登場するのが、「管理野球」を標榜する海堂学園高校である。海堂学園高校は、継投策を用い、数多の作戦や戦術を繰り出す常勝チームである一方、同時に勝利のために戦術に従うことを選手に強いる負の部分も描かれている。ストレートしか投げられない先発完投型の茂野と対立する価値観を持つ「悪役」として、管理野球・データ野球が登場するのである。
この高校野球編が連載されたのは、1998年から2003年のこと。あくまでも漫画の話だが、そうした作品が支持されていたということからは、20年以上前に管理野球やデータ野球に対する少なくない嫌悪感があったことがうかがえる。
現在はプロ野球のさまざまなデータが普及しはじめており、その恩恵に高校野球も浴している。2022年夏の甲子園の仙台育英の優勝は、データの必要性を象徴する出来事とも捉えられる。チームを率いる須江航監督が客観的な数値を重視していたことが話題になった。須江氏は、データを重視する理由についてこのようにコメントしている。
「一番は選手個々を伸ばすため。自分の長所や弱点を理解するためです(※1)」
つまり、データ収集は決して勝利のためだけではなく、あくまでも選手の教育や育成を目的としているのである。
こうしたデータは、投手なら球速やストライク率、打者なら打率、出塁率、スイングスピードなど、プレーにまつわるものはもちろんのこと、性格や学生の本分である学力まで把握している。いわば、選手の力を伸ばすための「カルテ」と考えるとしっくりくるだろう。まずは味方選手のデータを把握した上で、在籍する3年間で最大限に成長させる。これが現代のデータ野球の一歩目である。
相手チームの分析についても、ただ相手のプレーにまつわるデータを把握するだけに留まらず、味方チームのカルテを作り、そこから最善の戦術を練り上げていく。例えば相手投手を攻略するための戦術は、いまや球速、ストライク率のみならず、性格なども把握することが前提条件となっている。