仙台育英はどのようにデータを使っていた?
では実際に、2022年の夏の甲子園で優勝した仙台育英は、どのようにデータを使っていたのだろうか。まず、情報科の教員でもある須江氏は客観的な数値を把握するべく、データ分析の専門班を作った。このデータ班は、投手担当と野手担当に分かれて相手チームの映像をチェックし、配球の傾向や打者の特徴をまとめ、チーム全体で共有する役割を任されている。
加えて、味方チームの普段の練習からもデータを集めており、その情報はスプレッドシートで全選手と指導者に共有されている。例えば、各投手の投球数や疲労度などを入力し、その数字をもとに週末の試合に投げさせるかどうかを判断している。
また、須江氏はチーム編成でもデータを重視している。野手であれば、試合に出場する目安はバットのスイング速度140km/h以上。打撃動作を除く一塁駆け抜けタイム3・85秒未満。年に数回行う測定会で打球速度や飛距離、送球の速さなどを測る。公平性を持たせるため、このデータは選手にも公表され、練習メニューにも反映されている。
さらに、野手を「長打を狙える選手」「出塁率が高い選手」などの5つのタイプに分類している。これを基準に、計測データや練習試合の結果に基づいてメンバーを選考するのだ。これには、定量的なデータで選手やチームのいいところを伸ばしていく意図があるのだろう。個の力の底上げがあるからこそ、チームとしての底上げがあると感じられる方法だ。
こうしたデータの採用によって、選手選考において不公平感がなくなり、選手に求められる役割は明確になった(※4)。
目的意識がはっきりすることによって、実戦における自分の役割を意識して練習することができる。須江氏は2018年に仙台育英の監督に就くまでは、中学軟式野球部で指揮を執っていた。データを活用して日本一に輝いているこの方法論は、少なくともアマチュア野球においては適切な指導法の一つと言えるだろう。