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映像分析で対戦選手のクセや弱点をつかむ

 高校野球における相手チームの分析は、明徳義塾の馬淵史郎監督が優れた方法を確立している。馬淵氏は最初に、映像を用いての分析を行う。ピッチャーもバッターも、映像を見続けることで欠点を見つけ出す。重点的に見るのは投手で、とくに見るのが配球だ。また、球種を予測するのに貴重な情報となるのが構え方にクセが出る捕手である。とくに捕手が「低めに投げろ」というジェスチャーをすると変化球が多いため、馬淵氏は自分の学校の捕手には「低め」のジェスチャーをしてからストレートを投げさせる指導をしている。

写真はイメージです ©AFLO

 もちろん分析の精度も高い。2013年に対戦した瀬戸内の山岡泰輔(現・オリックス・バファローズ)や2016年に対戦した作新学院の今井達也(現・埼玉西武ライオンズ)は100%クセがわかったという。山岡はセットにゆっくり入ったらストレート、スッと入ったら変化球。

 今井はセットの手首の向きがふつうの投手と逆だったので、打席から球種の見極めがしやすいだろうと思ったそうだ(※2)。このように相手投手のクセを見逃さず、攻略の糸口を可視化していくのだ。しかし、投手のクセをわかっていても、好投手はそれを超える実力を持っており簡単には点は取れない。そのため、味方の投手と守備を鍛え、できるだけ少ない失点を計算し、分析を活かして戦える準備をするという。

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「最強」のタレント軍団を優勝に導いた裏方の存在

 また、2018年の大阪桐蔭は「最強」と呼ばれたタレント軍団だったが、最強世代の裏方として、データのスペシャリストの貢献があったという。

 データは小谷優宇記録員と石田寿也コーチが相手のビデオ映像を見て作成した。例えば決勝で対戦した金足農業の吉田輝星(現・北海道日本ハムファイターズ)に対しても、小谷・石田コンビのデータ班が準決勝終了後に一夜漬けで分析したところ、立ち上がりの制球が不安定で、ボールが先行すると直球でストライクを取りにくる傾向があることがわかり、それを打者に伝えた。決勝では、初球にほとんど手を出さず、好球を待つことを徹底。これは、データに忠実に従ったのはもちろんのこと、準決勝まで一人で投げ抜いた吉田に対し、待球して球数を投げさせることにもなっただろう。

 その結果、初回、四球と安打で満塁にし吉田の暴投で先制すると、六番・石川瑞貴がフルカウントから147km/hの直球を打ち返し2点タイムリーツーベースにした。監督の西谷浩一氏も「朝のミーティングで話していたデータ通り(※3)」とコメント。このデータ班の分析もあり、大阪桐蔭は二度目の春夏連覇を果たした。

 チームビルディングにおいても、選手のカルテがどれだけ正しく取れているかがカギになってくる。高校野球の難しさは、世代によって大きくチームが変わることである。夏に大きな成果を上げたチームでも、ひとたび世代交代をすれば、その後の秋の大会ではまた新しくチームの方向性を決めなければならない。このときに選手ひとりひとりのカルテが取れていれば、チーム全体の特徴をつかむことができ、スムーズにチームビルディングができるのである。