平成デモクラシー――冷戦が終結し、万年野党であった社会党が、自民党と対峙してパイの分捕り合戦をしていた時代が終わる。自民党が自ら打ち出した小選挙区制の導入を初めとする政治改革が、時を経ていまの安倍一強政治といわれる状況を生み出している。
果たして、それは政治改革に過剰適応してしまった結果なのか、それとも何らかの改革が不足していたからなのか、と著者は問う。
本書は、議院内閣制という表向きの枠組みの裏で成立していた「密教」、つまり弱い内閣をバイパスして結び付いた与党と官庁の間で政策が決まっていく図式が壊れる過程を、海部内閣から現在に至るまで詳細に追いかけている。
梶山静六元自民党幹事長初め、政治改革は小選挙区制の導入に矮小化されたとする政治エリートが少なくないという。しかし、著者が圧倒的な取材力と筆力で語るように、実は小選挙区制の導入こそ日本政治の根源的な変化をビルトインする威力を持つものだった。
なぜそのような政治改革の動きが自民党内から出てきたのか。本書は、リクルート事件の激震から経緯を説き起こす。そして、小沢派vs反小沢派といった政治の権力闘争が、「改革」という言葉で語られたことを指摘する。その通りだ。
だからこそ、当初小選挙区制の導入に大反対していた小泉純一郎氏は、政権に就くと改革の果実を一挙に活用しだしたのだ。人事権と解散権を手中にした首相には権力が集中していく。
政治改革が権力闘争であったという事実は、当時の改革に向けた政治家の熱量を理解するうえでも重要な点だ。小泉政権の最大の功績である郵政改革も、実際には党内の派閥抗争のエネルギーによって推進されたことは多くの人が指摘する通りである。
ただ、それだけの情念を反映して実現した「強い首相」が、政権交代の想定なしに続くとどうなるのか。本書は悩ましい問いを我々に突きつける。
しみずまさと/1964年京都府生まれ。東京大学卒業。日本経済新聞入社後、政治部、経済部、ジュネーブ支局長を経て現在編集委員。『官邸主導』『首相の蹉跌』『消費税 政と官との「十年戦争」』『財務省と政治』など著書多数。
みうらるり/1980年生まれ。国際政治学者。東京大学政策ビジョン研究センター講師。著書に『「トランプ時代」の新世界秩序』など。