文春オンライン

「もう非核化の意思はない」北朝鮮が「核開発」を決してやめない納得理由

『日本人が知っておくべき 自衛隊と国防のこと』 #2

2023/08/17
note

北朝鮮が「核を持つ」意味

 そしてついに2017年、トランプ政権が大規模な軍事力を展開して北朝鮮に圧力をかけます。その結果、北朝鮮が米朝首脳会談に応じるという展開になっていきますが、実はこのとき、アメリカがどれだけ軍事的圧力をかけてきても、本当に戦争に踏み切ることはないと北朝鮮に見切られていました。

 なぜ見切られているかを解説しましょう。

 軍事的圧力が一歩前進して、実際の攻撃行動に移ったとします。もし半島で米軍が寧辺郡の原子炉やそのほかの北朝鮮のミサイル施設を空爆したら、北朝鮮は反撃に出るでしょう。

ADVERTISEMENT

 その最大のターゲットはソウルです。ソウルはいわゆるDMZ(北朝鮮との軍事境界線)からたった20キロしか離れていませんから、北朝鮮のロケット砲や大砲の射程圏内です。もし米軍が北朝鮮を空爆したら、その後の北朝鮮からの反撃でソウルが火の海になります。この状況は、1993~94年の第一次朝鮮半島核危機の頃から変わっていません。

©getty

 そんな地理的リスクがある以上、同盟国である韓国は絶対に、アメリカの軍事力行使に首を縦に振りません。仮に北朝鮮に攻撃を仕掛けることで非核化を達成できるとしても、その代償としてソウルが灰になるというシナリオは、受け入れられる話ではありませんからね。

 つまり、第一次朝鮮半島核危機のときでも、2017年の軍事的圧力であっても、条件が変わっていない以上は、アメリカ側は北朝鮮に空爆ができないと最初から見切られているわけです。見切られている圧力には効果がありません。

 このケースを、今度は北朝鮮側の視点から見てみましょう。反撃によってソウルが火の海になるからアメリカが攻撃できないとするならば、アメリカは北朝鮮の反撃能力を根こそぎ奪い取るような攻撃を第一撃から仕掛けてくるのではないか。核施設だけでなく、ソウルを射程に収めた大砲も攻撃してくるのではないか。撃ち漏らす可能性がある場合は、万全を期して核兵器を使ってくるのではないかと、予想しているかもしれません。

 つまり、北朝鮮が核兵器を以てアメリカの核兵器使用を抑止しなければならないと考えても、論理としてはおかしくないのです。

「もう非核化の意思はない」北朝鮮が「核開発」を決してやめない納得理由

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー