もし東京に「160トンの核兵器」が落ちたら、どれほどの被害が出るのか? 素粒子物理学者の多田将氏によるシミュレーションを、新刊『核兵器入門』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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核兵器による5種類の「被害」
まずは、現代日本のどこかの都市が核兵器による攻撃を受けた場合、どんなことが起こるのかをシミュレーションしてみましょう。もしもあなたが住む町やその近くに核兵器が落とされたら、いったい何が起こるのか。あなたは助かるのか、助かるためにはどんな行動を取るべきか、シミュレーションによってみなさんに核兵器による被害を紙上体験していただこうという試みです。
最初に決めるのは、核兵器が落とされる場所、いわゆる爆心地です。今回、不幸にもその爆心地に選ばれたのは東京都文京区音羽一丁目、東京メトロ・護国寺駅にほど近い、株式会社星海社のあるビルです。本書の出版社に犠牲となってもらいます。
さて、核兵器による攻撃で大変な被害を受けることは、みなさんもよくご存じでしょう。でも、実際にどんな被害を受けるのか、もしあなたが核兵器による攻撃で死ぬとしたらどのような理由で死ぬのか、ということは意外にご存じないようです。
核兵器が爆発すると、その巨大なエネルギーは、次の5つの方法で周囲に伝わります。それは「火球(巨大な火の玉)」「熱線」「爆風」「放射線(爆発時の放射線)」「放射化物(死の灰、フォールアウト)」です。これらが届く範囲にみなさんがいて被害を受けると、負傷したり命を落としたりすることになります。
5つのうち、火球と爆風はなんとなくわかると思いますが、熱線や放射線、放射化物についてはあまり知らない方も多いでしょう。これらについては後ほど詳しく説明します。
核兵器による攻撃があると、爆心地に巨大な火球が出現します。これは表面の温度が数千度(中心部では瞬間的に数千万度以上)になる火の玉です。そして、強烈な熱線と放射線が光の速さで周囲に広がります。もしみなさんが核兵器による火球を見たら、その際には同時に熱線と放射線を浴びてしまっています。そして少しすると、ものすごい爆風がみなさんを襲います。熱線や放射線の速度が光速なのに対して爆風は音速で広がるので、熱線や放射線より後にやって来るのです。雷が光るのを見た後にゴロゴロと雷鳴が聞こえるのと同じです。最後にもう少し時間をおいて、放射性物質である放射化物が降ってくるのです。
では、火球、熱線、爆風、放射線、放射化物は、爆心地からどのくらいの距離まで広がり、それによってわれわれにどのような影響があるのでしょうか。それは、核兵器の威力によって左右されます。したがってシミュレーションのためには、落とされた核兵器の威力がどのていどなのかを決める必要があります。