落とされる核兵器の出力を決める
今回のシミュレーションでは、北朝鮮が2017年9月3日に行った地下核実験で使用した核兵器の威力(核出力)を用いることにします。これは現時点(2023年2月時点)で北朝鮮が最後に実施した核実験です。この時に使われた核弾頭と同じものが星海社に落とされたという設定にするのです。
北朝鮮のような秘密主義の国が地下核実験を行った場合でも、その核出力を正しく知ることが可能です。核爆発の際に起こる地震の規模から推定するのです。2017年9月3日の地下核実験によって起こった地震の規模は、観測によるとマグニチュード6.1でした。
アメリカやソ連はかつて地下核実験を何度も行い、核爆発によってどのくらいの規模の地震が起こるのかを実際に調べていました。それによると、核爆発によって生じる全エネルギーのうち、1割ほどが地震を起こすエネルギーとして使われることがわかっています。このことから、マグニチュード6.1の地震をもたらした北朝鮮の地下核実験の核出力は、160キロトンと推定されました。
核出力は、TNT火薬(一般的な高性能火薬)に換算すると何トンの爆発力に相当するかで表されます。160キロトンの核出力とは、TNT火薬160キロトン(16万トン)分の爆発力を持つということです。1945年8月6日、広島に落とされた原子爆弾の核出力は15キロトン、8月9日に長崎に落とされたものは21キロトンだったと言われています。北朝鮮の核実験で使われたものは、広島型の11倍、長崎型の7.6倍の威力を持つという計算になります。
では、160キロトンの核兵器が東京・護国寺の星海社に落とされた場合に、どの範囲にどんな被害が生じるのかを見てみましょう。
もっとも致死範囲が大きいのは……
図1は、核兵器による5つの被害、すなわち火球、熱線、爆風、放射線、放射化物のうち、火球の大きさを実線で、そして放射線、爆風、熱線による「致死範囲」を点線や破線で示したものです。どれも星海社を中心に同心円で描かれています。放射化物による被害の範囲はこの地図には描かれていません。
一番中央の実線で描かれた円は、核爆発によって生まれた火球です。160キロトンの核兵器が爆発した場合、火球の大きさは半径580メーターです。最初は小さくて超高温で、青白い光を放ちます。それが一瞬で広がりながら温度を下げ、黄色から赤へと色が変化します。その最後の大きさが半径580メーターのこの円になる、ということです。