アオサギがこれほど脚光を浴びる時が来ることを、誰が予想しただろう。

 アオサギ、漢字で書くと「蒼鷺」。分類はペリカン目サギ科アオサギ属。アジア・ヨーロッパ・ アフリカに広く生息し、日本でも川や干潟や公園の池など、あらゆる水辺で姿を見ることができる。ヘビのように長い首、すらりとした足、長く太いくちばし、シラサギとは違う青みがかったグレーの体が特徴だ。

著者より提供

 外見に劣らず、アオサギの暮らしはワイルドだ。魚や虫や甲殻類だけでなく、時には同じ鳥類や 小型哺乳類まで捕食する。「張り詰めた弓」のようにジッと動かないかと思えば、突如として矢のような瞬発がひらめく。長い首を素早くのばし、鋭いくちばしで獲物を捉えるのだ。堂々たる巨体の優雅さと、ナイフのような切れ味を兼ね備えたアオサギを眺めていると、「鳥は“恐竜の子孫”ではなく、“恐竜”である」という最新科学の結論に、いっそうの説得力を感じられないだろうか。

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 かようにアオサギは魅力的で、不思議で、底知れない鳥だ。にもかかわらず、ふさわしい脚光を浴びてきたとは言えない。たとえば創作物にサギのキャラクターがどれほどいるだろう。無数の「鳥ポケモン」がいるポケモンシリーズですら(最新作にはウミツバメポケモンまで登場)、いまだに「サギポケモン」はいない有様である。

 だからこそ2023年7月14日、日本を代表する巨匠である宮崎駿の、おそらく最後になりそうな劇場長編アニメ映画『君たちはどう生きるか』を観た私は、アニメ好き&鳥好きとして衝撃を受けた。この作品が、紛うことなきアオサギ映画だったことに。

「非現実」への橋渡しを担うアオサギ

  本作は燃え盛る東京の光景から幕を開ける。戦時中の火災で母をなくした主人公・眞人(まひと)は、母親の実家がある地方へ疎開することになる。屋敷に足を踏み入れる眞人の目には、屋根の上に佇む大きな鳥が映っていた。そう、我らがアオサギである。

©AFLO

 まず、アオサギのリアリスティックなアニメ表現に目を奪われる。池のほとりにアオサギが佇んでいると思ったら、急に眞人の方に向かって、屋敷の縁側をスーッと旋回して飛んでくるシーンは忘れがたい。あくまで現実的なタッチを貫きつつも、未知の領域から人間の領域へと何かが少しずつ侵入してくる様を、ダイナミックに描いた魅惑的な「鳥描写」となっている。

 母をなくしたショックと悲しみにも影響され、眞人を取り巻く「現実」世界は少しずつ「非現実」に侵食されていく。その橋渡しとして重要な役割を果たすのがアオサギだ。くちばしを歪めてニヤリと笑う表情を浮かべたり、ぬるっとした不自然な動きとともに不思議な塔へと眞人を誘い込んだりしながら、アオサギはじわじわと物語のリアリティラインを変化させていく。