文春オンライン

腕と足はむき出し、白いワンピースを真っ赤に染めて…綾瀬はるかが「傷が絶えない」壮絶な演技に挑んだワケ

2023/08/13
note

 撮影にあたって、髪の毛も「切っちゃいましょう」と潔くばっさり切ったそうだ。大正時代のヘアスタイルのカツラをかぶる手もあったが、激しいアクションにカツラだと対応できないので思いきったという。過去、連続ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS、04年)では丸刈りにしたこともあるから、役のために髪を変えることを厭わないのだろう。

 まったくもって綾瀬はるかは役に奉仕する俳優なのである。

求められることに適切に応える俳優

『リボルバー・リリー』のなかでは、暗い過去を背負っているため言葉少なで、笑顔も少なめだが、映画の制作発表で帝国ホテルの大広間に設置されたレッドカーペットを歩いたときや、本編完成報告会で銀座をクラシックカーの助手席に乗って走ったときには、ニコニコと拳銃をチャーミングに撃つポーズをして見せる。

ADVERTISEMENT

綾瀬はるか ©文藝春秋

 そうかと思えば、この映画のテーマは「戦争と平和」という論調の新聞のインタビューでは〈戦争しても何も解決しないというのは今の時代のメッセージとして強いものがあると思います〉と語る(2023年7月28日公開、朝日デジタル『願うは平和 「リボルバー・リリー」に主演、綾瀬はるか』より)。求められることに適切に応える。それはまさに、行定勲が評価するところである。

 綾瀬が演じる百合も、否応無しにスパイになって、上司の要求を適切に実行してきただけで、幸か不幸かポテンシャルと鍛錬が合わさって最強のスパイになったのだろう。綾瀬はるかも、俳優になった以上は、まわりに期待されることに、自分のちからを精一杯使って応えているのだと感じる。

 映画本編でも会見の衣裳でも、鍛えあげられて美しい背中全開なのも、精一杯のパフォーマンスなのだと感じる。

『ランボー 最後の戦場』のイベントでシルヴェスター・スタローンとポーズを決める綾瀬はるか ©文藝春秋

 筆者は『リボルバー・リリー』のパンフレットの取材をしたとき、綾瀬に、男社会のなかで女性が戦う話をどう思うか聞いた。綾瀬は、戦争体験者である祖母の話をしてくれた。女性がしっかりしていれば争いごとはおきない、というものであった。家庭円満の秘訣がまわりまわって世界平和につながるという回答は、言いすぎず、言わなすぎず、絶妙である。強い思想を感じさせないから、誰も傷つけない。それでいて、普遍的な願いがこもっている。