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プリンセスのようだが、天然ではない

 インタビューのときも、撮影現場を見学したときも、綾瀬は常に、お鍋があったまると浮いてくるお豆腐のようだった。ウィスパーボイスをキープして、明るすぎず、暗すぎず、彼女のまわりはいつも柔らかく、笑顔。集中するあまりバリアーを張っているように見える人物に対しても、彼女だけはそのバリアーをすうっと通り抜け話しかける。主演女優でございという強さで立ち向かわないムードメーカー。映画『今夜、ロマンス劇場で』(18年)で演じた映画の世界から抜け出してきたお姫様のように、プリンセスってこういう感じなのかなと思うような居方をする人である。

映画『今夜、ロマンス劇場で』公式サイトより

 綾瀬はるか、天然ボケ説が流布しているが、おそらく天然ではなく、むしろ極めて敏い人だと感じる。NHK紅白歌合戦ではじめて司会に抜擢されたのは2013年の第64回。言い間違いや、台詞忘れなどを多発して、ひやひやさせた。が、持ち前のふんわりした愛嬌で切り抜けて、その後も22年の第73回まで3度も司会に抜擢されている。これは彼女の才覚であろう。

 綾瀬の言う「しっかり」は、場に波風を立てないことはないだろうか。ただし、楽しい笑いでのみ場を揺らすのだ。いやだなと思うこともあるだろう。でもそれをはっきりした形で出さず、穏便にやり過ごしながら、自分にできることは精一杯やる。2000年にデビューしてから23年、そうやってきたのではないだろうか。

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綾瀬はるか ©文藝春秋

『リボルバー・リリー』で珍しく台本に疑問を投げかけ…

 筆者は、現場を取材した流れで、関係者の証言を集めた書籍『「映画『リボルバー・リリー』は何を撃ち抜くのか?」大正・パンデミック・戦争――日本映画の現場を伝える行定勲と80人の闘い』(報知新聞社、23年)の一部執筆を担当した。そこでどうしても書き記しておきたかったことがあった。

 綾瀬が、CMの発表会を翌日に控えながら、夜遅くまで、重要なアクションシーンを撮影していたときのことである。そのときの綾瀬はじつにキビキビとしていた。また、行定監督いわく「こうしたいと主張しない人」の綾瀬が珍しく台本に疑問を投げかけ、変更を提案したエピソードもある。その元の台詞と彼女の語った理由は、なるほどなあ、わかる、と思うものであった。実にクレバーなのだ。

 ここで無用に男女の分断を煽っても仕方ないし、それは綾瀬が好むところではないと思う。でもこれだけは言いたい。男性陣が、綾瀬はるかが自分の望むように動いてくれていると充足感を覚えていても、じつのところ、綾瀬はるかの思うがままになっているのではないだろうか。たぶん、それこそが円満の秘訣であり、好感度の源である。