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突き飛ばされた妊婦

 2017年3月のある日、僕は日雇いの仕事で現場に出ていた。仕事が予定よりも早く終わり、ハイエースで会社まで帰っている途中、「助けて!」と、ミカからLINEが入った。

「どうした?」と聞くと、

「お姉さんと、お母さんが怒ってる。家にいられない」

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 会社に着くと、「すみません。妻が緊急なので、片付けせずに帰らせてください」と言い残し、急いでミカの所に向かった。

 アパートの近くの喫茶店に行くと、ミカはパジャマ姿で、涙を流しながら俯いて座っている。テーブルの上には、アイスコーヒーが1杯置かれていたが、口をつけていなかった。氷がとけて水になっていて、アイスコーヒーと分離していた。1時間近く1人で待っていたという。

「大丈夫か? 外に行こう」とミカの手を取って車に乗り、僕の実家へと向かった。話を聞いていると、

「あなたのせい」という。

 ミカがパジャマ姿で部屋でくつろいでいる時、姉と母に呼び出され、僕がフィリピンへの送金に否定的だったことをなじられ、「あんな旦那となんで結婚した?」「別れたら」などと言われたという。

 ミカも腹が立って強く言い返すと、激高した姉がミカを突き飛ばした。

 ミカは急いでベランダに逃げ、扉を開けられないように抑えた。姉は怒って、ミカをベランダから部屋の中へ戻そうとするが、母が姉を抑えている間に、ミカは急いで外に出たのだという。

 妊娠中のミカを突き飛ばすなんて。

 パジャマ姿でまだ寒い中、外で震えていたミカを思うと、腸が煮えくり返る思いがした。「もうそんな家族捨てちまえ!!」僕は実家に向かうまでの車の中、大きな声で怒りをぶつけた。

 ミカはしばらく僕の実家で過ごすことになった。僕も実家から仕事に行くことにした。僕が仕事から帰ると、ミカは寂しそうにベッドの上で横になっていたが、「もうお姉さんの家には戻らない」とその怒りは収まってはおらず、ミカの母から電話がかかってきても、「もう帰らないから」としか答えなかった。

 それでも、毎日「帰っておいで、悪かった。また家族仲良くしよう」と泣きながら母から電話がかかってくる。だが、ミカは「嫌だ。もう無理」と言っていた。ミカは相当なストレスを抱えて、1日中ベッドの上で過ごしていた。毎日の母からの「家族がバラバラになって悲しい。戻ってきてほしい」という泣きながらの電話に、だんだんとミカも同情心を見せるようになった。

「お母さん心配だな。電話でもずっと泣いてる」

 ミカの顔は日に日に元気がなくなる。お腹の中にいる子供も心配だ。

「お姉さんとお母さんと、話し合いに行く」

 仕事を終えた夜、ミカを車に乗せ、姉の家に帰った。アパートに着くと、母がミカを泣きながら抱きしめた。奥の部屋には、ミカの姉が後ろを向いて座っていた。

 ミカが奥の部屋に行くと、姉が「ごめんね」と泣きながらミカを抱きしめる。お互いに泣きながら話し合った。家族は再び元に戻った。