東大を目指す予備校生だったものの覚醒剤と出会い、ヤクザの道に進んだ末に逮捕。その後、一念発起して司法試験に挑み、弁護士になった諸橋仁智氏(46)。
そんな彼に、覚醒剤をやめられなかった日々、精神科病院への措置入院、覚醒剤を渇望しながらの司法試験へのチャレンジなどについて、話を聞いた。(全3回の3回目/最初から読む)
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汗は死人の臭い
――注射で覚醒剤の味見をするうちに完全な中毒に陥ってしまったと。それまでアブリ派だった諸橋さんを変えてしまった注射ですが、効き目は違うのでしょうか。
諸橋仁智(以下、諸橋) 効き目は変わらないと思います。要は身体にクスリが回るスピードが違うんです。アブリは30分ぐらいかけて陶酔するんですけど、注射は1~2分で回るんですよ。アブリはジワジワジワジワ~で、注射は1分や2分でスッといっちゃう。速く効くなら、注射のほうがよくなっちゃいますよね。
その効くまでの時間差によって、アブリの効きが薄く感じるようになっていくんですね。それで僕は味見以外でも注射するようになって、1年くらいでおかしくなっちゃいました。
――アブリと注射、効いている時間も違うのでしょうか。
諸橋 両方とも、24時間くらいは効いてるんじゃないですかね。ただ、汗をかくとすぐ効果は切れちゃいます。汗と一緒に流れちゃうんですよね。で、その汗って死人の臭いがするんです。
――死人ですか。
諸橋 なんだか独特のホルモンみたいなものが分泌されてるのかな? この話をするたびに「じゃあ、死人の臭いをどこで嗅いだんだよ?」って言われるんですが、僕も本物の死人の臭いは嗅いだことはないです。
でもなぜかみんな汗が死人臭いと言いますね。だから、シャブやってる人の部屋に入ると「あ、死人の臭いがする。やってるでしょ?」なんてなりましたね。
親分から涙目で「シャブ、やめられないのか?」と言われて
――注射で打つようになって1年ぐらいでおかしくなったとのことですが、どういった形で支障が出てきましたか。
諸橋 まず、カバン持ちなのに時間を守れず、用事をしっかりこなせない。親分には「いい加減にしろ」と何度も怒られて、ヨレヨレの状態で迎えにいったときは涙目で「シャブ、やめられないのか?」と言われましたね。もう、売人としても金勘定ができなくなりましたから。
「シャブ抜きしろ」と事務所に1週間くらい籠らせられたけど、仲間が「諸ちゃん、大変だろ?」ってシャブを差し入れしてくるんですよ。見張りもいたけど、僕が「ちょっとだけ持ってきて」と頼むと「いや、ヤバいって」と言いながらも兄弟分みたいな関係だから「じゃあ、ちょっとだけだぞ」となって。結局、やっちゃってました。
――そして、渋谷のスクランブル交差点で交通整理をしていたと。これはいつぐらいの事件ですか。