「もともと武田(仮名)がコンセントを使ってなにかをやっていた時に感電したのが原因。それを見た野間(仮名)がふざけて私に通電し、昏倒した私を見て松永が、『それ、いける』となったんです」

 2002年3月に発覚した「北九州監禁連続殺人事件」。起訴された案件だけで7人が死亡しているこの事件では、主犯の松永太(逮捕時40歳)と内妻である緒方純子(同40歳)が、被害者に対して“通電”による虐待をしていたことが明らかになっている。

 冒頭の発言は、福岡県柳川市で松永が経営していた、布団訪問販売会社ワールドの元従業員・山形康介さん(仮名)によるもの。彼の発言のなかに登場する「武田」や「野間」といった人物は、当時の従業員である。山形さんによれば、85年5月頃に起きたこの出来事をきっかけに、松永は日常的に通電による虐待を行うようになったのだという。

人体のあらゆる場所に「通電」という虐待

 ちなみに、この1ヶ月前の4月に松永はワールドの本社ビルを新築したばかり。同ビルの裏に松永が「生け捕り部屋」と称する、もとは倉庫として使っていた小屋があり、従業員たちは一部を除いて、そこで雑魚寝をしながら共同生活を送っていた。松永による通電は、ほとんどがその小屋で行われていたようだ。山形さんは言う。

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「食事は1日1回で、松永家で食べたものの余りなどを貰っていました。なにかヘマをした社員に対して松永が『デンキをしろ』と言うと、その他の社員が体を押さえつけてやっていたのですが、人体のあらゆる場所に様々な方法でやっていました。当時使っていたのは電気コードの先をむき出しにしたものですが、むき出しにする長さを変え、時には手首や足首に巻きつけたりもしました」

布団訪問販売会社『ワールド』の事務所兼自宅ビル(本社ビル) 2002年撮影

 通電以外にも松永は、販売実績が上がらないなどの理由で、バットで殴ったり、足蹴りをしたり、水風呂に入れるなどの暴行や虐待を日常的に繰り返した。さらに松永が従業員どうしでの監視や密告を強要したことで、彼らは相互不信に陥り、反抗や逃走ができなくなっていた。事件発覚当時の福岡県警担当記者はこう説明する。

「松永は従業員らに常々、自分が暴力団と繋がりがあるように話していました。それで、『知り合いにヤクザがおるから、逃げても無駄やぞ』と脅したり、なにかあれば実家に追い込みをかけることを示唆して、逃げられなくしていたのです」

まるでヤクザの組事務所

 一方、本社ビル3階の和室には、実家の両親と分籍した緒方が住むようになっており、彼女はワールドの事務員として働いていた。

 当時のワールドの事情を知る、松永の友人だったⅮ氏は語る。

「2階にある事務所で、緒方は事務員の制服を着て働きよったね。派手さはまったくなくて、地味な印象よ。太(松永)の(情婦を意味する小指を立てて)コレっていうのは明らかやった。ほんで、事務所のソファーで太と話したりしよろうが、そうしたら従業員がおしぼりを持ってきて、直立不動で壁際に立っとるからね。ヤクザの組事務所みたいな感じで、異様な雰囲気やったよ」