“金づる”として目をつけた家族を監禁し、通電などによる虐待を重ね、最後は家族同士で殺し合わせて遺体の解体までさせる――起訴されただけでも7人が亡くなっている北九州監禁連続殺人事件は、20年以上たった今も人々の関心を引き続けている。
この事件についてノンフィクションライターの小野一光氏による文春オンラインの連載をもとにした『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)が2月8日に刊行された。事件発覚の2日後から取材を続けてきた著者の小野氏に話を聞いた。(全2回の2回目/前編を読む)
少女の監禁事件に「いずれ大事件になるだろう」という予感
――この事件は2002年の3月6日、監禁されていた広田清美さん(仮名)がマンションから脱出し、祖父に伴われて警察に被害を届け出たことをきっかけに明るみに出ます。
小野 その日は別の取材で熊本にいたのですが、フリーランスの記者として出入りしていた週刊誌の編集部に連絡したら「行っていいよ」というので、2日後に現場に入りました。
事件当初は殺人が行われていた話は一切出ることなく、あくまでも17歳の少女が中年の男女に6年間、監禁され(後に7年と判明)、自分の爪をラジオペンチで剥ぐよう強要されて傷害をうけた事件として報じられていました。
けれども裏では死者が出ていると新聞記者たちから聞いていたので、いずれ大事件になるだろうという予感はあった。まだ新聞でそのことが報じられる状況ではないけれども、いまのうちに取材を広げておこうと思い、いろいろと回りました。
事件の「その後」を知りたい
――それから約20年。ノンフィクションは一審判決後に書籍が出ることが多いように思います。しかし小野さんは最高裁で刑が確定した後も、ずっと取材を続けています。
小野 僕は根っこがしつこいので、ひとつの事件を追い続けることに抵抗がないんですよ。自分のなかで終わりにできないと言いますか、事件の「その後」を知りたい。長い時間軸で事件を見たいという思いがあります。
気になる事件の当事者や関係者のなかには、定期的にお会いしたり、年賀状のやりとりを続けていたりする方々がいます。いまでも、『新版 家族喰い』(文春文庫)で書いた尼崎連続変死事件の関係者とも会っているし、大牟田連続4人殺人事件も追い続けている。そういう事件がいくつもあって、いろいろな人たちとの細い糸をいっぱいつないでいます。そうしているうちに月日が経ったことでの心境の変化から、事件について話してくれることがありますから。
たとえば、事件化はしていないですが、松永太に“金づる”にされたひとりで、海で溺死した女性がいます。このあいだ文春オンラインで記事(「北九州監禁連続殺人事件」に残された“謎の死” 母子2人の連続死が未解決になった理由とは)にしたのですが、彼女の弟さんに家に上げていただいて、写真を見せてもらいながら話を聞くことができました。そういうことが起きるのも、やっぱり20年経ったからなんでしょう。
――監禁、虐待、殺人、遺体の解体の現場となったマンションは、どのような物件なのでしょうか?