“金づる”として目をつけた家族を監禁し、通電などによる虐待を重ね、最後は家族同士で殺し合わせて遺体の解体までさせる――北九州監禁連続殺人事件は、20年以上たった今も人々の関心を引き続けている。
2002年3月、17歳の少女が監禁されていたマンションを脱出したのをきっかけに、同じように監禁され虐待を受けていた人たちが死亡していたことが明るみに出た事件。主犯は松永太(逮捕時40)と内妻の緒方純子(同40)。二人は起訴されただけでも、緒方の父、母、妹、妹の夫、妹夫婦の長女、長男、別の家族の少女・広田清美さん(仮名)の父、計7人を死に至らしめ、松永は死刑、緒方は無期懲役の判決が確定している。
この事件について、ノンフィクションライターの小野一光氏による文春オンラインの連載をもとにした『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)が2月8日に刊行された。事件発覚の2日後から取材を続けてきた著者の小野氏に話を聞いた。(全2回の1回目/続きを読む)
“金づる”のターゲットは「世間体を気にする人」
――家族単位で虐待し、支配と服従の関係を築いて金を吸い上げ、最後は殺害する。類似の事件も取材されている小野さんから見て、松永の犯行の特徴は?
小野 松永は、世間体を気にする人を“金づる”のターゲットにしています。たとえば緒方家は久留米(福岡県)の資産家で地元の名士でもあり、非常に厳格な家庭でした。だから一家から犯罪に手を染めた者が出るのを恥と考え、世間に知られたくないとの意識から、緒方純子の起こした問題を警察や周囲に相談せずに自分たちで解決しようとします。
そうして隠蔽工作を手伝わされるうち、気づいたら蜘蛛の巣にからめ取られるように松永に支配されていたわけです。世間体をタテにとるといいますか、周囲に知られたくないという心情を松永はついたんです。
――緒方の妹の夫は千葉県警の元警察官ですが、彼までもが松永にいいように支配されています。
小野 子供を人質として押さえられたのが大きいと思います。松永は、緒方の妹夫婦の子供ふたりを祭りの見物に連れて行くといって、親から引き離し、自分のもとに置きます。そのため両親は久留米から北九州まで行かないといけなくなるんです。
そうやって緒方家の人たちを自分のもとに引き寄せていきます。彼らは家族を守るために松永に従い、犯行に加担せざるを得なくなっていく。松永はそうやって負い目を負わせ、それを文章に書かせて、余計に逃げられない状態に追い込んでいきます。
松永が、人を支配するのに長けていたのはそういうところです。