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犯罪を減らすために最初にやったこととは?

小宮 ケリング博士はまず、「地下鉄の強盗を減らすには、まずは車両の落書きを減らせばいい」と言い出しました。当時はみんな「馬鹿じゃないの?」と笑っていたけど、「車内の秩序を保つことが重要なんだ」と主張した。まずは落書きを消して車両を綺麗にする。そして次は「無賃乗車を規制しよう」と取り締まりをはじめました。

 イタズラレベルの小さい悪から、徐々に範囲を広げて、街の秩序を整えていったんですね。すると、次第に強盗の数が減少していったんです。これが「割れ窓理論」。

――「犯罪機会論」とはそもそも、子どもの誘拐事件に限ったことではなく、「犯罪を減らすには景色を変えるのが効果的」という理論なんですね。

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小宮 そうです。コンビニエンスストアが全面ガラス張りなのも、そもそもは周囲から「見えやすく」することで強盗や万引きを防ごうというアイディアです。日本の多くのコンビニでは、ポスターが貼られたり、本棚が置かれたりして、意味がなくなってしまっていますが……。

「虫歯を見てあげる」と少女たちの口を開けさせて…

――「危ない場所」の特徴であれば、子どもでも判断がつきやすいという面もあるのかもしれません。

小宮 子どもが巻き込まれる犯罪で恐ろしいのは、“犯罪行為”自体に気づけない子どもが多いということです。

 たとえば2006年に首都圏で起きた事件では、犯人の男性が「虫歯を見てあげる」と言って女児の口を開けさせて、舌を舐めるという行為をはたらいていました。その回数はおよそ50回にも及んでいた。そこまで被害が拡大するまで捕まらなかった理由は、子どもが性犯罪にあったことに気づいていなかったからなんです。性犯罪の多くは表面化しておらず、被害の件数は、警察が把握している件数の10倍、20倍……もっと多いかもしれません。

©iStock.com

本当に効果的な声かけとは?

――では、「犯罪機会論」に基づくと、子どもにどう声かけして伝えることが防犯に効果的なのでしょうか?

小宮 「その人がいる背景・景色を見てごらんなさい。あなたの目の前の人はあなたにウソをつくかもしれないけど、景色は絶対にウソをつかない」と伝えてほしいです。それと、「危ない場所」を見抜く訓練を生活に取り入れてみてください。子どもと一緒に街を歩いているときでもいいし、車に乗りながらあちこち景色をみるときでもいいし、「ここはどうだろう? 危ないかな?」と話し合うことで、自然と違和感に気づけるようになります。

――被害を防ぐには、「危ない場所」に気をつけるという意識を高める……ということしかないのでしょうか?

小宮 考え方として気をつけるのはもちろんいいのですが、例えば日本以上に海外では「犯罪機会論」に基づいた街づくりをしていて、システムによって犯罪を減らす、防犯体制ができているんです。