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ホストクラブ業界が可視化された

 新しいホストクラブが増えだしたのは、この頃からだった。

 暴力団の圧力がなくなったことで、若いホストたちが独立して、自分の店を次々と開店させていったのである。手塚が自身の店を立ち上げたのも、2003年、まさにこの時期だった。

 さらに、同じ時期に流行っていたSNSもホストクラブ業界に新たな風を吹き込んだ。

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 それまで、ホストクラブは閉鎖的であり、外に開かれてはならない空間だった。事業の失敗などで身を落とした男が、浮世離れした歌舞伎町に名前と顔を隠して入り込む。そして数年間、悪いことをしてでも無我夢中で働いて大金をつかみ、また一般社会にもどる。良くも悪くも、そんなことが認められる世界だったのだ。

 だが、SNSの普及によって、ホストクラブの中が可視化された。どこのホストクラブはぼったくりだ、どこのホストは質が悪い。そうしたことが書き込まれるようになったため、業界全体に規制がかかり、クリーンになっていった。

 

 ホストクラブ業界がクリーンになったことで変わったのは、ホストと客の質だった。

 普通の大学生がちょっとしたバイト気分でホストになる。まるでサーフィンやヒップホップをはじめる感覚でホストの仕事に応募する。

 客も、水商売の女性や女社長だけでなく、世間慣れしていない女子大生やOLが急増した。ごく普通の女性たちがお小遣いやお給料を握りしめて遊びにやってくる。

 いわば、俗世間から切り離された欲望と金が飛び交う世界が、たった数年のうちに光が当てられ、ファッション化していったのである。

 こうした現状について、手塚は言う。

「一時代前のホストクラブと、今のホストクラブとではまったくちがいます。なので、ホストの収入自体も、世間がイメージするほど極端に多いというわけではないかもしれません。月収で100万円を超えるのは2割弱といったところです。逆に言えば、8割以上のホストが普通に社会で稼ぐくらいの給料か、それ以下なのです」

 ホストの客集めもSNSの動画中継で行われたり、手塚がやっているようにホストたちが町の清掃ボランティアや書店経営などまったく別事業に乗り出したりということが行われているのも変化の一つだろう。

「歌舞伎町ブックセンター」には「ノルウェイの森」も 

「この世界、まったく飽きない」

 私がホストクラブを見学した際も、数十万円、数百万円という酒のボトルを見かけることはほとんどなかった。むしろ、飲み放題でつかわれるような安価な焼酎のボトルの方が目立ったほどだ。ホストたちの特殊なスーツも、ネットや専門店で中古服が安価な値段で売り買いされているという。

「それでも、歌舞伎町も、ホストクラブも、ものすごい人間が濃くて面白いですね。僕は大学を辞めてからずっとこの世界にいますが、まったく飽きない。暗い過去を持った人もいれば、FtM(身体は女性だが性自認は男性)の子がホストになっていたりする。そういう人たちが集まってきて、何の差別もなく働けて、それなりの人間模様を描いてくれるのが、ホストクラブの世界なんだと思います」

©iStock.com

 ホストクラブがクリーンになり、誰もが働き、遊びに来られる場所となった今、ある逆転現象も見られるという。

 かつては女性客を食い物にするはずだったホストが逆に、したたかな若い女性客に翻弄されてしまう光景だ。女性客は刹那の楽しみのためにホストを利用し、ホストたちは自らのアイデンティティーを築くために女性客に翻弄される……。

 手塚が経営する店の2名の若いホストが、まさにそんな新しいホスト像を示している。

 一人は北海道の児童養護施設で育ったホスト、もう一人は東日本大震災で高校時代に被災したホストだ。

 後編では、彼らの歌舞伎町での姿を通して、現代の夜の街をのぞいてみたい。

写真/末永裕樹(文藝春秋)

後編につづく
http://bunshun.jp/articles/-/6524