プライベートジェットで帰宅
サンタモニカの山道を車で走り、林を抜けた先に、高い壁に囲まれたウェイン邸があった。鉄柵の扉の左右に刻まれた『J』と『W』の文字がジョン・ウェインの頭文字だということは後になって知ったという。
「おい、こりゃなんだ? なんて言ってるうちにズーンって音がして扉が開いた。自動扉なんてまだ珍しい時代だから驚いたのなんのって。
門からお屋敷に辿り着くまでにさらに車で10分くらいかかったよ。ようやく辿り着いて、案内された広間がこれまたとてつもなく広いんだ。外の光が家の中に入ってくる構造で床にピカピカと反射するから、眩しくて目もあけられないほどだった。
あちこちにソファが置いてある、だだっ広いリビングの先に見えたのは、石油を掘るための採掘場で、窓の下をのぞくとポンプが見えた。ジョン・ウェインは油田や鉱山をいくつも持っていて、そこもそのひとつだったらしい。何から何まで桁違いで、すごいもんだなあと感心しっぱなしだったよ」
一行が待つ邸宅に主が帰ってきたのは、しばらくしてからのこと。ウェインを乗せた飛行機が敷地内に敷設された滑走路に降り立った。
「外からゴーッという轟音が聞こえて、テラスに上がるとジェット機が頭の上をドーンと越えて行ったんだ。子供の頃に見たB-29よりはるかに大きかったし、何よりプロペラが無いことにも驚いたね。当時はまだ、日航の国際線でさえようやくDC-8が就航した時代。飛行機の大半がプロペラ機だった頃にジョン・ウェインはプライベートジェットを乗り回していたわけだ」
小一時間ほどで小林の前に現れたウェインは2メートル近い大男だった。身長180センチの小林が立ち上がると顔の前に胸があり、握手をする時は見上げるようにして手を伸ばさなければならなかった。
「彼の馬にも跨らせてもらったけど、とてもじゃないが足が届かない。胴回りが大きすぎて、足が宙ぶらりんになってしまうんだ。スクリーンで見るとそこまで馬が大きく見えなかったのは、それを乗りこなすジョン・ウェインがいかにデカいかってことだよね。
やあやあと挨拶した後に、普段は何してるのかと聞いたら、油田の方に行ってると。そこに家族がいるみたいな他愛のない話を交わしたと思う。パスターナクが俺のことを『日本の俳優だ』って紹介してくれたけど『そうかそうか』って、その程度だよ。それでもこっちにしてみれば忘れられない、いい思い出になった」