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2023年8月13日、全てがあの日に噛み合った

 しかし、指揮官の助言と5試合0勝3敗という成績からフォークに再挑戦した。

「全員に握りと投げ方を聞きました。松山(晋也)はドヤ顔で教えてきましたね(笑)。難しかったのは清水(達也)。大きく指を広げて挟むザ・フォーク。結局、一番合ったのが宏斗のスプリットでした。縫い目の外側に指を添える握りです」

 試行錯誤を繰り返し、まずは本人曰く「なんちゃってフォーク」が完成した。

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「試合で投げないと打者の反応が分からないので、宇佐見さんに『今日からフォークを投げます。でも、余裕のある時に出してください』とお願いしました」

 7月4日、バンテリンドームの巨人戦。宇佐見は要求通り、2回1死無走者、大城卓三、カウント2ストライクと有利な場面でフォークを出した。しかし、結果はレフト前ヒット。「あっさり打たれました」と笑う。

 でも、諦めなかった。ハイスピードカメラを駆使し、手首の角度など頭の中のイメージと実際の映像をすり合わせていった。すると、ブルペンで自分でも驚く1球が投げられた。すぐさま落合コーチが「今のだよ!」と叫んだ。

 7月30日、東京ドームの巨人戦。4回1死2塁、梶谷隆幸、カウント2-2と緊迫の場面でフォークを投げた。結果はファーストゴロ。手応えを掴んだ。

 長いイニング、あの辺に投げる、無四球、フォーク、全てがあの日に噛み合った。

 4回2死無走者、西川龍馬、カウント2-1からフォークを投げた。バットが空を切る。「あれで決め球に使えると確信しました。人間の可能性って無限大ですね」。捨てた球種が武器になった瞬間だ。

 9回2死2塁。羽月隆太郎の盗塁後、中日側がリクエスト。中断中、宇佐見がマウンドに歩み寄った。

「あの上本(崇司)さんの場面は全球インコースの真っ直ぐをお願いしました。四隅ではなくズドンと腕を振って投げようと。結局、次の球でセンターフライでした」

 ノーヒットで9回を投げ切ったが、味方の援護なく、快挙ならず。しかし、勝利はかけがえのないものだった。あの日、チームもファンも笑顔になった。

「チケットやグッズを買って応援してくれるのは当たり前じゃありません。ましてや最下位です。今の時代は色々な演出で球場を盛り上げることができますが、やはりファンの方には勝つことで喜んでほしい。プロなので、弱い、下手、負けは情けない。それが続くのはもっと情けない。自覚を持って戦わないと。怪我なく、長く、マウンドに立ち続けます」

 残り23試合。勝とう。

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