「これは大人になって身につける動きではない」
「(選手の怪我の仕方、傾向を見ると)柔らかい体の強さが少し足りない。例えば体勢が悪い時にどう捕球するか、投げるか。どんな風にボールを避けるか。そういう時、“こうやって体を使う”とか頭で考えるものでなく、バランスや体幹で瞬時に反応するもの。これは大人になって身につける動きではない。子どもの頃から木を登ったり、転びそうになったりした時に自然とバランス感覚がついたりするもの。そうやって備わるもの。今は世の中情報こそ多いけれど、案外、野球の動きに特化した練習法だけをやれば良いというわけではない」
そう話したのは現役時代100勝を挙げ、2014年にホークス二軍投手チーフコーチを担った山内孝徳さんだった。
卓越した選手が集まる一軍のグラウンドを見ながらでもそういう話に及ぶのが一層興味深かった。
私の前で二人が口にした言葉には“子ども、自然、体幹、バランス”と共通項が多い。
今宮選手の言葉を借りると、「地元での木登り=それくらいしかやることがない」という自虐も含まれていたが、しっかりと基盤になって、その後の野球に関わる動きに繋がっていると言って良いのではないだろうか。
木登りというキーワードを例にとると、よじ登る時に木を掴むことで握力がつく。最後に体をグッと持ち上げる時には指の先まで力を入れることで指の力もつく。指の力は最後にボールを押し込む時の強さに大きく関係してくる。そして身のこなし。足を上げたり下げたり、柔軟性も身につくので体を動かす器用さにも繋がる。こういう動きをすれば登れるという予測もできるし、状況判断力も鍛えられる。木登り一つでも野球に通ずる要素が多いことが分かる。
いわゆる筋トレも子どもではフォームなどを意識しにくい上に、そのフォームを間違えるとかえって怪我を生んで身体的な成長を妨げてしまうこともある。
特化した練習法ばかりに時間を取るよりも、楽しさや好奇心を優先し自然の中で身につけてくるものを増やしていく“野放し”の時間は重要だと感じたものだ。
野球では鍛えられない身体能力が、野球の能力を高める大きな底力になる。
記事を書きながら、現在、自分が暮らす福岡市中心部を見渡してみる。
そうは言っても登るような木は見かけない。近くに林もない。皆様の住む環境はどうだろうか。
「別府とは違うのだから」と多くの方からご意見を頂戴しそうな気がしてきているが、初めての執筆であることと今宮選手に免じてお許しいただきたい。
目の前には山も川もある別府の環境を、子どものうちに甥には使いこなして欲しい。
洗練の仕方には色々ある。
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