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「どうして随行秘書を女性にしたのか」

前秘書の告発があった翌日の新聞には、北朝鮮への特使と安知事のニュースが並んで1面トップとなり、“安ショック”が広がった。

「次の日は北朝鮮の話なんて全然出なくて、安知事の話ばかり」と40代後半の会社員(女性)は語る。

「化粧室とか給湯室で女性たちが集れば、とにかく安知事の話でした。『単身赴任だったからさみしかったのか』とか、『どうして随行秘書を女性にしたのか』などなど。ともかく、まったく性暴行という言葉からは連想されない人でしたから、今でも信じられない。この先、一体どんな人を信じればいいのか、分からなくなってきてしまって、『恐いねえ』なんてみんなで言い合っていました」

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 それまで男性だった随行秘書を女性にした際、安知事の周囲も憂慮したそうだが、本人は、「『そういうことは一切ないから安心してくれ』と言っていたそうです」(前出記者)。

 同世代の50代の会社員(男性)は神妙な面持ちだった。

「この場合、自身の地位を利用したパワハラによるもので決して許されない行為ではありますが、性暴行とは意味が少し違うのではないかと戸惑いを覚えます……。最近の#MeToo の勢いに、女性社員と関わるのが恐くなりました。女性社員との会食はなるべく避けて、必要最低限のコミュニケーションに徹したほうがいいのかもしれません」

 前秘書に続き、3月7日には、安知事が関わっていた研究所の元職員も知事を告発し、大統領予備選時代から「権威主義が酷かった」という醜聞も噴出した。

 ネットも混乱していて、「信じていたのに酷い」という内容のものから「20代でもなく30代の女性が断れないはずがない。陰謀がある」などと陰謀論を提起するものまで、さまざま内容が書き込まれている。

©iStock.com

 安知事は3月8日に開く予定だった記者会見を直前にキャンセルしたが、その背景について前出の韓国全国紙記者はこう語った。

「青瓦台が止めたとも漏れ伝わってきます。安知事は、『前秘書を愛していた』と発表する予定だったようで、与党(共に民主党)の6月の地方選挙への影響を考えて、これ以上の打撃は避けたいと判断したようです」

 実は、演劇界で告発されて永久追放された大御所の演出家は、文大統領と同じ高校の同級生で、大統領選挙では文在寅陣営にいた人物。文学界で名前が挙がったノーベル賞候補ともなった詩人の高銀氏も民族文学界の重鎮と、今回#MeToo運動で名前が挙がった人物は皆、奇しくも進歩派ばかりなのだ。これには保守派の野党陣営は大喜びで、野党「自由韓国党」の洪準杓代表は、進歩派内の分裂を図ったのか真相は分からないが「安知事の件は、任鍾晳青瓦台秘書室長が仕組んだもの」と冗談めかして発言し、物議を醸している。

次は国会に及ぶといわれている#MeToo

 雲隠れしたままだった安知事は3月9日、自らソウル市内の西部検察庁に出頭した。少しやつれた雰囲気だったが、声には力が残っていて、「国民の皆さま申し訳ありません」「妻、子どもにも申し訳ない」などとはっきりとした口調で話し、どこか堂々としている印象も受けた。政治的決着がついているという憶測もあるが、捜査では何を語るのだろうか。

 そして、安知事が検察に姿を現わしたちょうどその時間、#MeTooによりセクハラ疑惑が取り沙汰されていた俳優が自殺したというニュースが飛び込んできた。

 次は国会に及ぶともいわれている#MeTooだが、被害者への二次被害も危惧され始め、自殺者も出る中、韓国社会には混沌とした雰囲気が流れ始めている。

 日本とは対照的な広がりを見せる韓国の#MeToo。長年、女性が虐げられていると問題提起がされてきた韓国で今、何が起こっているのか。分析や答えはそう簡単には出ない。