「ベイスターズで一番上手かったのって誰だったの?」
引退してから何度も聞かれたこの質問。私は決まって「関根大気だと思う」と返事をする。私がベイスターズに在籍した2年間、彼はファームで過ごす時間が長かった。正直、不思議でならなかった。そして今シーズン、ようやく彼に相応しい場所で輝きを放ち始めた。何が変わったのか? そもそも何も変えてないのか? とにかく聞きたいことが溢れていたので、お話を聞かせてもらうことにした。
結論から伝えると、チームを思うこと、大切な人を思うこと、この力の大きさを誰よりも体現しているのは関根選手なんだなと、そう思わせてくれた。そんなお話。
「結果が出ようが出なかろうが、一年くらいやり通してわかることもあるなって」
関根選手は謙虚である。一番上手いと思ってたと伝えても、「自分で全然上手いとは思わないですよ」と答えてくれた。しかし、だからこそたどり着いた結論があると言う。そして、もしかするとそれが今シーズンと昨シーズンまでとの違いになっているのかも、と教えてくれた。
「野球の技術だけで僕が試合に出続けるのは無理だから、試合に出る、出してもらうために何が必要かということを考えてやってます」。関根選手はこの言葉の意味を丁寧に説明してくれた。
まず、打者としての特徴を活かすこと。長打が打ちたくても、それを高いレベルで再現し続けるのは難しい。それならば、しっかり安打を打てる選手を目指すべきだ。ここまではよくある話なのだが、彼はそれ以外の視点から試合に出るための行動を心がけた結果、技術にも繋がったと教えてくれた。
「昨年くらいからかな。バッティングは特に、自主トレから取り組んできたことを1年間やり切ることに重きを置いていたんですけど、それ以外にも必要なことがあるんじゃないかと思うようになりました。試合で使ってもらうには、自分がやりたいこととか、どうなりたいかというよりも、求められていることができる選手の方が価値があるんじゃないかって思うようになりました。なので、提案していただいたことに対して、まずはトライしてみようとしました。今まではやってきてないようなやり方も、とりあえずはやってみよう!って感じで。そうしたら、思ったよりも(技術の面で)色々なプラスがあったんですよね。それを実感できたから、挑戦することのハードルが下がって、どんどん色々なことにトライできるようになったって感じですかね」
関根選手は職人気質の人間だ。食事も技術も感情表現も、とにかく細部までこだわっている。そんな彼が、とりあえずやってみよう!から様々なことに気がついた。今の彼からは想像がつかないが、ルーキー時代の彼は、とにかくあれもこれも、とコロコロとやり方を変えていたと教えてくれた。しかしそれでは何も身につかないまま事が進んで行くと感じ、あれもこれも、ではなく、一つのことをやり遂げることを大切にするようになった。そして現在。「とりあえずやってみよう」という今の関根選手の取り組みは、ルーキー時代のそれと変わらないように見えるかもしれない。しかし、彼が積み上げた「関根大気」があるからこそ、とりあえずやってみたことから得たものを「選択肢」の一つとして使えるようになったのである。
「結果が出ようが出なかろうが、一年くらいやり通してわかることもあるなって。だから、今までは下に深い根を張るようなイメージで技術を作ってきたんですけど、それ以外のことでもとりあえずやってみたら色々あるんだなってことに気づきました。やり通すことももちろん大事だし、変化によって得られるものも大事だし。もちろん、それによって得られるものはプラスもマイナスもあるけど、材料は得られますよね。今までは下にひたすら深く根を伸ばしてた感じだけど、それを横にも広くって感覚ですかね」