重苦しい雰囲気の中、最初に声をかけてくれた先輩は……
1回10失点。あまりにも屈辱的な試合の象徴となってしまった左腕。試合後のロッカーも当然、雰囲気は重い。近藤は、結果的に“1日限定”となってしまった自分のロッカーに深く腰を落とし、うつ向いて座っていた。
「実際に投球する前の状態は良かったんです。一度崩れた流れを戻すことができなかった。投球内容を見ても明日から2軍(降格)だなっていうのは分かっていたので、ロッカーではちょっと誰とも喋れない状態というか……。もう誰かと話したら泣いてしまいそうだった」
そんなどんよりとした雰囲気の中、最初に声をかけてくれたのが藤嶋健人だった。さらに、オリックス、日本ハムを渡り歩き、今季トレードで移籍してきた齋藤綱記からも声をかけられて涙腺が崩壊した。
「廉、今日の結果はひょっとしたら俺や他の投手だったかもしれない。今日はたまたま廉だっただけで、どの投手にもなる可能性はある。切り替えていこう」
と、先輩左腕は近藤を慰めた。プロ9年目の齋藤も結果が出せない日々の中で死ぬ物狂いで腕を振ってきた。同じサウスポーというライバル以上に、仲間として衝動的に近藤の元へ駆け寄ったのだろう。近藤は泣いた。泣きじゃくった。「悔しい」。その思いだけが頭の中を支配した。
いいか悪いか反響は大きかった。報道陣を通じてDeNAのトレバー・バウアーからもエールが送られた。剛腕助っ人もかつては大量失点で1イニングも持たずに降板した経験があり、ニュースサイトの記事経由でメッセージを受け取った。それを見た近藤は感謝の気持ちを抱いたという。
「メジャーリーグで大活躍した人でもそういう経験があった。自分の中で、このことをうまく切り替えていこうと思いました。こんな投手を気にかけてくれてすごく嬉しかったです」
チームメートだって、バウアーと気持ちは同じだ。年下の近藤のことをなぜか「廉さん」と呼ぶ選手会長の柳裕也からはLINEで激励された。
「レンさんお疲れ! 今日色んなことを感じたと思うけど、そういう気持ちをやり返せるのは、やっぱりマウンドの上しかない」
文章の最後に柳自身がデザインされたスタンプで締めるあたりが柳先輩らしさ満点だが、近藤の胸には深く刺さった。公私共に仲の良い橋本侑樹からも、同じくLINEで励ましの言葉をもらった。
今季再び1軍に昇格することはなかった。それでも廉さんは前を向く。10月1日のウエスタン・ソフトバンク戦(タマスタ筑後)では、1回無失点に抑えた。
「野球の結果でやり返すしかない。いい意味で割り切れるようになりたい」
今季の防御率は「72.00」。でももうシーズンは終わった。また「0.00」にリセットされて2024年がやってくる。悔しさをバネにして飛躍するのか、このまま終わってしまうのか。かつて愛用のグラブに刻んだ「驀進(ばくしん)」という言葉のように、堂々と真っ直ぐに未来へ立ち向かい栄光を勝ち取ってほしい。
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