クマに会った時に取るべき行動、取ってはいけない行動は…
東出 調べたところ、ハチに刺されて死亡する事故が例年20件前後起きている(厚労省調べ)のに対して、クマによる死亡事故は令和に入ったこの4年間で10件(環境省調べ)だそうです。
米田 そうなんです。入山者数に比べてクマによる事故は稀、死亡はなお稀。食われるなぞ天文学的な数字……兆(ちょう)、京(けい)、垓(がい)の世界なのに。
東出 僕は都市部の友人からよく「クマに遭遇したらどうしたらいい?」と聞かれます。米田さんは『熊が人を襲う時』という本でクマによる事故を細かく分析していますが、クマに会った時に取るべき行動、取ってはいけない行動にはどんなものがありますか?
米田 人間がクマにあった時の動転ぶりというのはただごとじゃない。とにかくその場から離れたいという意識が働くだろうが、背を向けて逃げるのはダメ。じっと動かず、もし近くに木や電柱があればその陰に一体化する。あと横移動はよくないね。位相差が分かって気が付かれてしまうから。
東出 離れる時は背中を見せず、ゆっくり垂直に後ろに下がっていくイメージですか?
米田 そう。30メートルほど離れたら素早く踵を返して逃げる。
頭部を噛まれたり、攻撃されたりすることが多い
東出 僕は師匠たちに自分の目線より上にいる熊は撃つなと教わりました。クマって時速55から65キロで走ると言われていて、1秒間で15メートル距離を詰められる。傷ついた動物っていうのは大体が山を登らず下ってくるので、30メートル上のクマを撃って仕留めそこなったら、怒り狂って2秒で僕のところに来てやられちゃう。
米田 そう、咄嗟に下に逃げてしまうことが多いが、上に逃げた方がいい。あとは首を守ること。いろいろな事故を見てきたが、やはり頭部を噛まれたり、攻撃されたりすることが多いね。
山野井泰史っていう有名な登山家がいるんだけど、この人は奥多摩でクマに襲われて、顔面を噛まれたわけよ。骨がメリメリいって、このままでは鼻がもがれると思った瞬間、ふと力を抜いたわけだ。そうしたらクマもすっと力抜いたと。その隙をついてクマに蹴りを入れて逃げ延びた。
いやぁ、これはすごいね。その後の彼の発言も素晴らしい。「一生の中でこんな経験ができて幸せだ」って。さすが、言うことが違うよね(笑)。