「あそこが2016年、クマに4人が殺された地帯だ――」

 秋田県の山奥、白い風車が聳え立つ麓を指さしてそう語るのは、日本ツキノワグマ研究所所長の米田一彦(74)。50年以上にわたり山でクマを観察し、その生態に迫ってきた。

牛を襲い続けたOSO18の姿(標茶町提供) ©時事通信社

 今年8月22日、北海道で牛66頭を襲ったヒグマOSO18が駆除されたニュースが全国を駆け巡った。2019年頃に北海道標茶町のオソツベツに出現し、前足の大きさが18センチであることから「OSO18」のコードネームがつけられた雌グマ。執拗に乳牛を獲物にし、その用心深さでハンターの追跡から4年以上逃れており、「最凶のヒグマ」と注目を浴びた。

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 そんな世間の熱を見て疑問を抱いたというのが、俳優で猟師としての顔も持つ東出昌大(35)。実際にクマと対面することもある東出は、山村と都会でクマのイメージや理解にギャップがあると感じていた。

 なぜ人間はこれほどまでにクマに興味を惹かれるのか。クマと人間はこれまでどのように共存し、今その関係はどのような局面にあるのか――。

 山暮らしの中で抱いた疑問を、米田にぶつけた。(全4回の1回目)

東出昌大(左)と米田一彦 ©文藝春秋/撮影・杉山秀樹

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クマと「会う方法」の裏を返せば「会わない方法」もわかる

東出 僕はもともと動物が好きで、野生動物に肉薄するような生活をしたいと考え、6年前に狩猟免許を取得しました。初めて米田さんの本に出会ったのは、免許を取得する前のこと。猟師の師匠から、「猟師にとっての必読書だ」と勧められたのが、米田さんの『山でクマに会う方法』でした。当時の僕は素人だったので、『山でクマに出会わない方法』という本ならわかるけど、「会う方法」とはどういうことだろうと驚いて(笑)。

米田 「会う方法」の裏を返せば「会わない方法」もわかる。そういう意味でタイトルをつけた。

『山でクマに会う方法』(ヤマケイ文庫)

東出 2年前に北関東の山奥に移り住み、今はシカやイノシシを獲って生活をしています。家の裏の木にはクマが樹上で木の実を食べる時にできるクマ棚があるし、クマの越冬穴を見つけたこともある。中を覗いたら毛や、生臭い匂いが残っていて……。