日本ツキノワグマ研究所所長の米田一彦(74)は50年以上にわたり山でクマを観察し、その生態に迫ってきた。今年8月、そんな米田のもとを訪れたのが、俳優で猟師としての顔も持つ東出昌大(35)。実際にクマと対面することもある東出は、山村と都会でクマのイメージや理解にギャップがあると感じていた。

「ニホンカワウソやニホンオオカミのようにクマを絶滅させないためには何ができるか。人間とクマが共存していく道はあるのか。そんなことを伺いたくて、米田さんが毎年クマの観察に訪れている、ここ秋田県鹿角市の現場にお邪魔しました」

 そう語った東出と米田の「クマ対談」は果てしなく続いた。なぜ人間はこれほどまでにクマに興味を惹かれるのか。クマと人間はこれまでどのように共存し、今その関係はどのような局面にあるのか――。

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 東出が山暮らしの中で抱いた疑問を、米田にぶつけた。(全4回の4回目/最初から読む)

米田一彦と東出昌大 ©文藝春秋/撮影・杉山秀樹

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山が許容できる適切な頭数を管理していくことが重要

米田 彼ら(マタギ)もそうだが、私もゲンを担ぐタイプでね。なんたって3000回はクマに遭遇しているから、何か一つでも間違ったら生きて帰れていなかったかもしれないというのがいっぱいある。

 真冬に2メートルの雪をラッセルして越冬穴を覗き込んだら、目の前にギラギラ輝くクマの目があってガオーンと襲い掛かってきてよ。胴まで雪に浸かってるから身動きもできなかったが、一緒に行ったアメリカ人がクマスプレーを持っていたんで助かったり。

「私もゲンを担ぐタイプでね」(米田一彦) ©文藝春秋/撮影・杉山秀樹

東出 普通の人が聞いたら、怖くてクマに近寄れなくなると思うような体験を米田さんはたくさんされていますが、本の中で「クマはクマでしかない」と書かれていたその言葉が印象的で。

 クマの食害とか人身事故をみんなグロテスクで残酷なものとして喧伝するけれど、自然界っていうのは食うか食われるかが当たり前の世界。人々は人間と獣の生活圏が切り離された暮らしが普通だと思っているけれど、長い歴史で見ればほんの数十年のことですよね。今クマが増えて、人間との距離が近づいてきたことを「自然」なのだと受け入れることはできないだろうかと考えたりもします。

米田 クマが特殊なのは、一つの死亡事故がきっかけで大量駆除が起こること。だから私としては、生息数をなるべく正確に把握し、山が許容できる適切な頭数というのを割り出して管理していくことが重要だと考えている。