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OSO18がきっかけでメディアがきついタイトルで報じるように

米田 クマに会ったことは?

東出 あります。夏に山の中を鉄砲も持たずに散策していたら、左上の斜面30mぐらい先の倒木の上に、真っ黒い塊が立って、こっちを見ていたんです。「うわ、クマだ」と思って見惚れていたら、「なんか面倒くさいのが来たな」みたいな顔をして去っていった(笑)。これが森の王様かと感動して、なんだか人間がちっぽけな存在に思えました。

初めてクマと遭遇した際に「これが森の王様か」と感動したという東出昌大 ©文藝春秋/撮影・杉山秀樹

米田 俺は学生時代、リンゴ園で野生動物を観察している時に最初にクマに出会ったんだけど、神々しいって思ったよね。クマがバーンと目の前に立ったあの瞬間、人生観が変わっちゃった。

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東出 美しくて、雄大で。でも世間では北海道で牛を60頭以上殺したヒグマOSO18が現れたことをきっかけに、クマの恐ろしさばかりが強調される報道が目立つようになりました。

米田 研究者仲間が捕まえようと4年間も頑張っているが、一向に捕まらなかった。それをメディアがどぎついタイトルをつけて、微に入り細に入り報じることには、思うところがあったね。

「メディアがどぎついタイトルをつけて、微に入り細に入り報じることには、思うところがあったね」 ©文藝春秋/撮影・杉山秀樹

以前は箱罠にかかったクマを残酷な方法で殺していた

東出 確かにクマには狂暴な面もあるし、実際に食害や人身事件も起こっている。しかしその面ばかり報じられてはクマの駆除が加速してしまうのではという懸念を抱きました。

 僕は米田さんの本を読んで、ツキノワグマが九州では絶滅し、四国でも数十頭しか生息していないという現状を知りました。ニホンカワウソやニホンオオカミのようにクマを絶滅させないためには何ができるか。人間とクマが共存していく道はあるのか。そんなことを伺いたくて、米田さんが毎年クマの観察に訪れている、ここ秋田県鹿角市の現場にお邪魔しました。

米田 俺はまさにこの辺りの出身でね。大学卒業後の1973年に秋田県庁に就職して、自然保護課でクマ対策に関わるようになった。

 当時クマの管理方法といえば、100%が駆除。全国で箱罠にかかったクマをそれは残酷な方法で殺してたよ。二酸化炭素で窒息させたり、電気をビリビリ流して殺したり……。一番ひどかったのは箱の外から鉄の尖がった棒を突き刺さして殺す方法。クマが血を流しながら箱の中をくるくると回る姿はあまりにもむごくて見ていられなかった。

東出 今では考えられないことですね。