女性の変わらない「上昇婚志向」

 一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。

 山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。

 背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。

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「年収が自分より上」の男性は減っていく

 実は私も独身時代、恥ずかしながら結婚式の3か月前に「ドタキャン」した過去があります。婚約者が私に黙って仕事を辞めていたことが分かり、「信頼できない」と感じたからです。いまも若い未婚女性に取材する機会が多いので、彼女たちが強い将来不安から、結婚相手の男性に「堂々として欲しい」「安定した年収(稼ぎ)を」と望む気持ちは分かります。

 ただ、だからといって「いまの(未婚時代の)生活水準を落としたくない」からと、令和のいまも上昇婚志向を捨てず、昭和の視点で相手を探すようでは、結婚に至りにくいはずです。なぜなら既述の通り、若い女性では近年、正規割合が増え、平均年収も少しずつ男性に近づいており、年収が「自分より上」の男性は今後、減っていくからです。

 内閣府が、結婚意向のある未婚男女に「今、結婚していない理由」を聞いた調査でも、20~30代女性の回答で圧倒的1位は、「適当な相手に巡り会わない」(49.9%)でした(’19年 同「少子化社会対策に関する意識調査」)。ですが、少々厳しい言い方をすれば、男性に「自分より上」の経済力のほか、家事・育児力も、見た目力も、そのうえ「恋愛力」までをも求めているようでは、思うような相手に巡り合えなくても当然ではないでしょうか。

親と同居で現状に安心?

 また、’21年時点で、7割前後の未婚男女(18~34歳)は、いずれも親と同居しています(「第16回出生動向基本調査」)。この割合は、私(弊社)が積水ハウスと2年間マーケティング調査を続け、「同居親子(母娘)」に向けた新たな住まい(「CASA figlia(カーサ・フィーリア)―娘と暮らす家」)を開発した’06年当時から、さほど変わりません。

 山田教授は「近年の親世代は寿命が長く、子世代が40歳を過ぎても、彼らの精神的支柱として健在であるケースが多い」といいます。ゆえに、子どもたちは自身の老後不安を感じながらも、自分を愛してくれる存在が身近にいる現状に安心し、「結婚は、いい人が現れてから考えよう」などと、つい先送りしてしまうこともあるのでしょう。

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